よく似てらっしゃるようで


"とりあえず家に来い"

そんなメールの一文が届いて、来たか…と身構えた。ていうか敵に襲来されたって聞いたんだけど、大丈夫だったかのかな…あ、いや。爆豪くんは心配してない。心配とか私がしていいようなものじゃない。身分が違う。私が心配しているのは、お茶子ちゃんとか梅雨ちゃんとか…爆豪くんを除くA組のみんなだ。先生が入ってきたので、急いで携帯を鞄に入れた。今から帰りのSHRが始まる。

A組の授業中に敵が襲撃事件のことは、もう先生が教えてくれた。個性のこともあって、隠し事にはできないという判断からのことだった。ちなみにうちのクラスにも、地獄耳の個性を持つ女の子がいるから、常に先生達の会話がわかる。このSHRはA組のことではなく、徐々に近づく雄英体育祭についてだ。

「ーー、……まあ、概要はこんな感じだ。言われなくても、この辺は知ってるだろうから、ざっくりとした説明にした。わからなければ個人で聞いてくれ。んで、ここからはお前ら普通科だけの話だ」

少し教室がざわめき、先生が一喝した。

「この体育祭の結果によっては、普通科の生徒をヒーロー科に移籍させることもできるんだ。わかるな?この中にもヒーロー科と一緒に受けた奴もいるだろう。"Plus Ultra"。努力すれば、上に上がれる」

横をちらりと見れば、千載一遇のチャンスを与えられたと、少し喜んだ表情を見せていた。ぐ、と小さく拳を握って、自分を奮起させている。担任はなかなか沸点が低く、怖い先生なもんだから、みんな声に出しては言わないけど、それぞれ頑張る目標ができたようだ。

私は別にそうじゃない。そんな千載一遇のチャンスよりも、むしろ体育祭に出るか出ないかの問題だ。全クラス総出でやるなんて、絶対個性が物を言う競技に違いない。私が筋骨隆々で、ナイフをも通さない強靭な肉体をしていて持久力もあるゴリマッチョならともかく、特に鍛えてもないし基礎体力も平均以下の私がそんな競技に出て無事でいられるだろうか。しかしそれもまた、"Plus Ultra"なんだろう。先生は、「みょうじもちゃんと来いよ。全員参加だからな」と告げて教室を後にした。





「遅ぇ」

雄英からここまでどんだけかかると思ってるんだ。ていうか、通学してるんだから、妥当な時間だってわかるはずなのに理不尽だ。

ダッシュで駅に向かって、授業が終わって一番早い電車に乗れたってのに、ご主人様(この言い方すごい恥ずかしい)は微塵も誉めてくれなかった。本人は漫画をパラ読みしながらベッドに座ってらっしゃる。見た限りでは目立った外傷はない。

「まぁ座れよ」

ゾクリと背中が粟立った。なんだその優しい物言いは。これから何をされるんだろうかと妙に強張りながら、恐る恐る鞄を起き、ベッドに座ると、爆豪くんがそのまま私の足に頭をおいて寝転がった。

こ、これは…!

「まあまあだな」

膝枕と言う奴では…!意外にそういうのに憧れるのかな……まあ、あの暴君爆豪くんでも一応年頃なんだし…。でもなにも私でやらなくったって、あ、デブは俺の枕になっとけ嬉しいだろ?役に立ててってことかあ。……こればっかりは泣きたい。私だって年頃だし、個性云々はこの際気にしないけど、体型は気になるもん。

そんな私の葛藤も知らずに、爆豪くんはそのまますやすやと眠ってしまった。うえええええ!!?これ、爆豪くんが起きるまでずっとこの体勢でいなきゃいけないんだろうか。この前の初めてキスされたときも思ったけど、眠いなら呼ぶなよ。一人で寝なよ。一人で寝るのいやなのかな。

……。

することもない上に携帯は鞄の中。携帯くらいは身に付けておけばよかった。そんな反省をしても始まらないので、暇だから爆豪くんの寝顔でも観察しよう。無防備に寝るのが悪い。……すごい、眉間にしわが……。寝てるときでも機嫌が悪そうだ。あのさ、さすがに寝相で爆破とかしないよね?

ぐるりと部屋を見渡してみても、特におもしろいことなどない。写真やポスターがかざられているわけでもないし。イメージ通りの簡素な部屋だった。漫画も本当に嗜む程度なんだろう。ベッドにあった漫画を1冊取る。気になっていたけど買ってないやつだった。確か4巻ほど出てたはずなんだけど、2巻までしか見当たらない。暇なのでパラパラと読んでみると、…………。想像以上にハマった。2巻を読みたいのに本棚まで手が届かなくて、気分が落ち込んだ。…しょうがない、買おう。

って、私は一体何をしてるんだ!!!

「勝己〜、誰か来てるの?」

我に返ったそのときだった。トントンと階段を上る音と爆豪くんのお母さんらしき人の声が聞こえた。こんな状況見られたら…、絶対彼女って間違われる…!爆豪くんに起きてほしいと願えど、彼が起きる気配はない。「入るわよ?」カチャリとドアが開いた。

「……」
「……お、お邪魔してます…」

ああああああ死んだ…!!爆豪くんのお母さんが見ているのは、地味な女に膝枕されている息子さんの姿である。爆豪くんのお母さんは、しばらく固まったあと、息子さんの胸ぐらを引っ付かんでほっぺたを殴った。

「!!!」

さすがこの子あってこの親ありだ。爆豪くんも強制的に目覚めさせられて、目を見開いてびっくりしている。そりゃそうだ。

「あんた何時だと思ってのよ!!女の子が来てるんなら来てるって言いなさい!!このバカ!!……ごめんね〜、遅いからご飯食べていく?」
「えっと…」
「…帰れ」

スパァン、と爆豪くんのお母さんが、爆豪くんの頭を叩いた。

「ぜひ食べてって!!」

……なんか、おかしなことになったなあ。
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