葉隠透




「透ちゃんって、どんな顔なの?」

わくわくしながらそう聞くと、透ちゃんが「超絶美少女だよ!」と言った。透明な"個性"では、今、照れながら言っているのかドヤ顔なのかわからない。照れてるときのトーンじゃないけど。男子は、この前行われた体育祭のとき騙されて着たチアガール服を見て、透ちゃんの体がなかなかの物だと言っていた。正直くたばればいいと思う。

「透明ってすごいよね。だって、今透ちゃん裸なんでしょ?」
「やだ、なまえちゃん男子と同じこと言ってるよー」
「えっ。そういう意味じゃないよ!」

普段なら少し軽く、相手の肩や背中辺りを叩いたりするけど、当たることなく空気を切った。「へへーん!当たらないよーだ!」自信満々に言い切る透ちゃんに火が着き、何とか触れてみようとあちこちに腕を伸ばす。

「でも、やっぱりその個性大変だね」
「仕方ないよ。生まれつきなもんだし」
「だって泣いてても気づかれないんだよ」

指が、見えない空間の中で、確かにそこにある何かに触れた。恐る恐る掌全体で触ってみると、どうやら透ちゃんの手だったようだ。右手か左手かはわからない。見た目ではそこに何もないけど、触れてみて初めて熱を感じる。

「視えなくてもいいから、透ちゃんが傷ついてるっていうのを、知れるようになりたいな」

透ちゃんが、ありがとうと言ったけど、それすらもどんなニュアンスで言っているのかわからない。言葉で言わなくちゃわからないって簡単に言うけど、言えないことがどうしても出てくる。それがわかるようになったら、きっと、透ちゃんの本当の友達になれる気がするよ。