爆豪勝己




朝の電車はどこも混むものだ。ぎゅうぎゅうに押し入れられて、どんどん隅の方に流されてきた。この満員電車の中でも読書をしているサラリーマンを見ると、さすがだ、と尊敬の念を感じ得ない。音楽を聴きながら、倒れないように吊革を握っているのがやっとだ。いきなり勢いよく押され、ドアに背中がついた。凭れている方が楽だなと安心したのも束の間、目の前に立っている人物に気がついた。そして、向こうもこちらに気がついた。

「あ」「…………」

無言で怪訝な顔をしている彼には、見覚えというか何というか、いろいろある。確かに私はB組だし、彼は隣のクラスで、一見何の接点も無いように見えるが実は1つだけあるのだ。そして私はそれに関して、できれば二度と会いたくなかった。

「……………みょうじ」
「お、おはよう、爆豪くん………」

ヤバい。いきなり爆破とかされないだろうか。交通機関にいる手前それはないだろうけど、機嫌を損ねたらまずい。できるだけ笑顔で愛想良くそう言うと、何故か爆豪くんの目が吊り上がった。何でだ!

彼と私の因縁は、つい最近できたものである。体育祭での騎馬戦で、きっかけは物間だ。物間が爆豪くんに喧嘩を売ったのはいいが、私をもつついて個性をわざと使わせてそれを避け、見事爆豪くんに命中させた。私にそんなつもりはなかったとしても、結果的に爆豪くんに攻撃したことになったのである。別に競技内でのことなので、攻撃自体が悪いわけではない。でも、そのせいで緑谷くんと轟くんに挑めなかったから、個人的に恨みを持たれていてもおかしくはない。

「お前、同じ路線だったんだな」

ニィと口端を上げる。毎朝脅される系ですか。精神的に、地味にクるなぁ、それ。爆豪くんが私にケチをつけるなら、私は物間につける。どうして私が巻き込まれなきゃいけないのか。ガタガタと揺れる車内で、私と彼の距離は更に縮まったり、離れたりと忙しない。早く駅に着いてほしい…。

「いつもこの時間かよ」
「まぁ…」
「へぇ。気づかなかったな」

多分、その頃はモブ扱いだったんだと思うよ………。彼自身、爆弾のようなところがあるので、余計なことは言わずに笑い声だけで相槌を打つ。アナウンスから、最寄り駅の名前が聞こえてホッとした。と、思いきや、いきなり爆豪くんが右手をドアについた。ぐっと彼の顔が近くなる。

「明日もこの時間に乗れよ」

不敵に笑いながらそう言い、電車を降りていった。ハッとして私も慌てて降りるが、そのときにはもう爆豪くんは階段を上っていた。そういえば爆豪くんは人の名前を覚えないことで有名らしいが、明日からの恐怖で震える私がそんなことを覚えているわけがなかった。