健康的ナチュラリズム


※夏設定


「………何で扇風機つけないの?」

夏休みの宿題を一緒にやろう、という名目で瀬呂くんとお家デートをしているわけだけど、このじめっとした空気の中、瀬呂くんは冷房器具を何故か使わない。部屋の主である瀬呂くんがつけない限り、私にそんな権利はないので我慢をしていたけど……さすがに我慢の限界だ。現に瀬呂くんは向かい合わせどころか、すぐ隣に座っている。肌と肌が当たりそう。瀬呂くんの腕…ってどこを見ているの私は。

「いやあ…何かエロくね?」
「…………何が?」
「俺好きなんだよね。汗がこうさ、」

ツツ…と、瀬呂くんが顔の輪郭をなぞった。

「落ちてくのとか」

顔に熱が集中する。思わず「ひえっ」と、短い悲鳴が漏れた。エロいというのはこっちの台詞なんじゃないだろうか。ニヒルに笑われながら、「でもやっぱり暑いな」と服で汗を拭く姿とか何それかっこいい…!

「クーラーつける前にちょっと」

瀬呂くんの腕が私の肩に回った。首筋に顔を埋めるように抱き締められ、暑いというか恥ずかしいというか…。

「あー、俺ほんとこれ好き。みょうじの健康的な汗っていうの?いいよな」

もうリアクションができません。どうにでもしてください。

すうすうと呼吸音が耳を擽る。瀬呂くんを受け止めたまま、静止するしかなかった。少しすると、瀬呂くんはそのまま体を離れ、リモコンでクーラーをつけたあと「飲み物持ってくるな」と部屋を離れた。

………し、死ぬかと思った。

あまりの恥ずかしさで火照った体を、涼しい風が走っていく。さっきまで瀬呂くんの顔も体も何もかも近かった…!私しばらく忘れないよ!

「待たせたな。少し休憩しようぜ」
「……オレンジジュース」

きゃあきゃあと一人騒いでいたら、思いの外早く帰って来た瀬呂くんに慌てて正座をする。目の前に置かれたジュースに少し驚いてしまった。

「柑橘系無理だったっけ」
「ううん。いやあ、瀬呂くんのことだからチアシードとか持ってくるかもと思って…」
「どこの女子だ俺は」

「だって瀬呂くん、健康的なもの好きじゃん」と答えると、彼はぐっと眉間に皺を寄せて渋い顔をした。あれ、地雷だったかな…。

「前もBCAAって書かれたスポーツドリンク飲んでたし…」
「あれは運動後だったからな。そもそも、あんなんで摂る必要ないんだよ。あくまで1日3食の栄養バランスを整えた上で、どうしても不足がちな栄養を補うためのもんだからな。BCAAだってアミノ酸だから肉とか魚食ってりゃ摂れるし」
「へえ…そうなんだ」
「チアシードとかのスーパーフードだって、それだけ食えばいいってもんじゃねえし。まあ、体に悪いってわけではねえけど、何でも程ほどにバランス良くって言うのが一番だよな」

スラスラと教えてくれるけど、正直あんまり興味ない。そもそもチアシードとか見た目的に………うん。美味しいとはよく聞くけど、個人的に飲む気にはなれないかなあ。聞いたことのないものってやるのも食べるのも躊躇っちゃうんだよね。

「ちなみにBCAAの効能は」
「ストップストップ!もういいよ?!」

更に話が続きそうだったので、慌てて止めた。BCAAの効能とか聞いても、わざわざ「これ入ってるから買おう」とは思わないから!ありがとう!大丈夫!

せっかく二人きりだというのに、雰囲気も何もない。瀬呂くん、家庭科とか得意そうっていうのはわかった。保健体育とかの健康についての勉強なら100点取れそうだね、っていうのもわかった。あとはオレンジジュース飲みながら、違う話でもしよう?

「俺としてはみょうじも知っててくれた方がいいんだけど」
「どうして?」
「だって、俺の隣で、ずっと健康で居てほしいだろ」

ニッと口角を上げたから、狙って言ったことだとわかった。けど、こうもまたドキドキさせられるなんて。ずるい。照れ隠しをするように、思わずジュースを一気飲みした。





いつもご訪問していただきありがとうございます!あれ?マニアック………?フェチズム………?健康志向が出張ってますね……。ただ、汗フェチ瀬呂くんは個人的にえろいと思います。 遥様からいただいた前回のリクエストとは少し違った瀬呂くんを目指しましたが、いかがだったでしょうか。リクエストありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします!

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