今日は僕らがお世話します!


※ 緑谷視点


「お、おおおおおかーさん…!?」
「?」

コテンと首を傾げる、幼稚園のスモックを着た少女ーーもといみょうじさんを見て、みんなが固まった。次の瞬間「かわいいーーーーーっ!!!」と、女子たちがみょうじさんに飛び付いた。男子はそういうわけにもいかないので、可愛い可愛いと愛でながらだっこをする様を、ただ指をくわえながら見つめることしかできない。尾白くんと常闇くんは子供が好きなのかな。尻尾が微かに揺れているし、黒影が「オレニモ!オレニモ、フミカゲ!」と常闇くんを揺さぶっている。かっちゃんも子供…というか、小さいお母さんを撫でくりまわしたいようだけど、肩を震わせながらどうにか耐えている。轟くんは連写してた。飯田くんはと、隣を見るとすでに居らず、麗日さんに「う、麗日くん、次は俺に…」と申し出ていた。飯田くん…!

「なまえママ……違った、なまえちゃん今何歳?」
「?」
「おいくつですか?」
「よっつです!」

耳郎さんに抱っこをされているみょうじさんの、小さな手が、4の数字を作った。とても可愛くて、思わずみんながでれっでれの顔に変わった。今まで耐えていたかっちゃんの頭が爆発したかのように真っ赤になり、みょうじさんに近づいた。

「おい、爆豪。乱暴したら許さねえぞ」
「するか!」
「お前近づくなよ。顔こえーんだし、お母さんが泣いたらどうすんの」
「…………」

みょうじさんの大きな目が、じっと、かっちゃんを見つめる。

「ぐっ、可愛いんだよこんちくしょう!!!」
「ぎゃー!爆豪はげる!はげるっつの離せ!」

可愛さに当てられたかっちゃんが、高速でみょうじさんの頭を撫でた。髪はボサボサになるし、なかなか痛かったと思うんだけど、みょうじさんはきゃっきゃっと笑った。

「………しかしまあ、どうしてこうなったんだ」
「何か普通科の奴にぶつかって誤爆したみたいだぜ」
「そりゃ災難だったな」
「もうすごかったぞ、現場。B組の奴等が自分らのクラスに持って帰ろうとしてたからよ、鉄哲から奪い返すの苦労したんだぞ。あいつ子供好きだから」
「え。だから切島ボロボロだったのか」

遠目から見ていた砂藤くんと切島くんがそんな話をしていた。切島くんがみょうじさんを助けてくれたのか……お疲れ様です。





「ゆーがにいさま、みなねえちゃん、つゆちゃん、てんやくん、おちゃねえ、ましらにぃ、でんきおにいちゃん、えいくん、こうじにいちゃん、りきにぃ、めぞーにーさん、きょーかちゃん、はんた、しょーとにいさん、ふみかげくん、とーるおねえちゃん、かつきおにいちゃん、いづくにいちゃん、みねた、ももおねえさん!」
「…………何人か欲望に忠実なのが居るな」
「全部覚えれて偉いな。よしよし」
「勝手に席を移動するな」

相澤先生が騒ぎを聞き付けて、教室に来た頃には、みょうじさんは僕らの名前を覚えていた。お姉さんとかお兄ちゃんとか言わせたのは……まぁ……一人っ子とか末っ子が多いクラスだから………。何人かは録音もしていた。僕も「いずく」じゃなくて「いづく」って言っちゃったみょうじさんが可愛すぎて、ついつい録音しちゃったよ。「何でオイラだけ名字なんだよぉ!!」と机をバシバシ叩いた峰田くんは、「お母さんがびっくりしちまうだろ」とのことで、氷漬けにされていた。恐ろしい。

「……口田の一人勝ちか?」
「やはり自然に一番近い人間になつくんだね」
「純粋無垢な子供だからな。仕方ない」
「みょうじさん、もう一回僕のこと呼んでくれるかい?」
「ゆーがにいさま?」
「excellentだよ☆」

相澤先生はみんなの溺愛っぷりに溜め息をつき、みょうじさんの頭を一撫ですると、「放課後には戻るらしいから」と言ってセメントス先生と交代した。

「みょうじさんが小さくなってしまったと聞いて、簡単な詩をコピーしてきました。早速読んでもらいましょう」
「もう読めんのかな?」
「こんだけ話してるし、書きはできないけど読めるのは読めるんじゃない?」
「うほー!またあの舌っ足らずなしゃべりが聞けるのか!」
「上鳴ちゃんの発言スレスレね」

後日、授業にならないだろ、と相澤先生から怒られたらしいが、気にならないほど天使だったとセメントス先生は語ったと言う。

そしてお昼休み!珍しくお弁当が無いらしいみょうじさんを全員で引き連れて食堂に向かった。

「何食わせればいいんだ?」
「栄養バランスのいいものじゃないだろうか」
「瀬呂の出番だな」
「健康オタク、ナメんなよ」
「うわ、ドヤ顔腹立つな」

瀬呂くんは健康にいいものが好きらしい。メニュー選びは瀬呂くんに任せよう。みょうじさんは、口田くんと手を繋ぎ、口を少し開けて待っていた。他の学科の人から見られているのに気づき、時折にこやかに手を振っていた。可愛い。可愛すぎる。天使だ。

「定食系は食いきれないだろうし、オムライスと野菜ジュースがいいんじゃね?」
「じゃあそれで。金は俺が出す」
「議論するまでもなく即決!」

轟くんが高速で食券を買った。早い………早すぎる……本当にみょうじさんのためなら手段を厭わない人だなあ。後ろでは女の子達にお昼ご飯を聞いたみょうじさんが、「オムライスすきーっ」と喜んでいた。僕もうこの場に崩れ落ちそう。と、思ってみんなを見ると、常闇くんが片膝をついていた。シュールだなあ。

「よし、席に行こう」
「わたしがもちます!」
「重いからやめておけ」
「じぶんでできます!」

障子くんが持っていこうとすれば、必死で止めていた。持たせてあげたいのは山々だけど、ひっくり返ったら危ないし……どうしたもんかと僕らは顔を見合わせた。

「おかあさんがおしごとでいそがしいから、じぶんで、できなきゃいけないの!」

健気だ…!こんなことを考慮できる4歳が他にいるだろうか。いや、いない。萌えに悶え苦しんでいると、切島くんが野菜ジュースだけをみょうじさんに渡した。

「今日はみんながいるから、できなくてもいいんだぞ。大きいものは、この目蔵兄さんに任せとけ」
「……。じゃあ、めぞーにーさん、よろしくおねがいしまっす!」

切島くんの言葉に納得したのか、笑顔で答えたみょうじさんは、多分今日一番可愛かった。いつもは逆の立場にいるが、これは癖になりそうだ。行儀よく、礼儀正しく食べ進めていくのを見て、僕らは本当に癒された。体育祭の騎馬戦でかっちゃんとやり合った物間くんが、プリンをご馳走するくらいに癒された。





「………今日は大変お世話になりました」
「いえいえ!」

幼児になっていたときの記憶があるのか、恥ずかしそうに意気消沈するみょうじさんと、癒されすぎて肌が心なしかつやつやしている僕ら。何て対照的なんだろうか。

「お母さんにお姉ちゃんって言ってもらうの、楽しすぎ!!」
「もう1回言ってくれないかしら」
「いっ嫌だよ!もう妹は終わり!お母さんに戻るし!」

いつものお母さんがお母さんすぎて、もうどうしていいか…!!

これは後日、みょうじさんの知らないことだが、轟くんを筆頭に、青山くんやあすっ…梅雨ちゃん、尾白くん、障子くん、飯田くん、耳郎さんが菓子折りを持って普通科に行っていた。また頼むつもりなんだろうな……。みょうじさんに心の中で謝りつつ、実は僕も楽しみだった。もう1回だけでいいから「いづくくん」って呼ばれたい…。





いつもご訪問していただきありがとうございます。せっかくなので、普段書かない幼児化を選ばせていただきました。中身は大人で外は子供のコナン方式にしようか迷ったんですが、完全に幼児化した方がおもしろそうだったのでこっちにしてみました。思った以上に収拾ごつかなく、駆け足で終わってしまい申し訳ありません。すごく楽しかったです!本編にておまけも載せていますので、そちらも見ていただけたらと思います。リクエスト企画にご参加いただきありがとうございました。これからも「疲労。」をよろしくお願いします!

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