幸せは夢の現れ


※短編「幸せ絶頂の白昼夢」続編



「轟くん…“焦凍“って呼んでもいい?」
「お、おま、なんつー格好してんだよ…!」

ぐわっと顔が赤く染まるのには、歴とした理由がある。俺もバカじゃない。座学の授業がある度に、突如気持ちのいい眠気に襲われて、目を開けれたと思えばこんな、こんな夢を…!!目前に広がるのは白い大きなベッド。白い空間。そこに寝そべる布団を被ったなまえ。これでも授業中なのにこの夢は駄目だろ…!夢は願望の現れと言うが、べ、別にこんなのを望んでる訳じゃ…。

「焦凍くん」
「一旦冷静になろう。な、なまえ。近づくな!俺を押し倒すな!シャツを脱がせようとするなー!!」

夢でもなければ、きっとこんなに叫ぶこともないだろう。………と思ったけど、なまえが壁に頭をぶつけて血だらけになったときも叫んでたな。夢は願望の現れ。俺はこんななまえとの情事を願ってるわけじゃない。そう思いたいだけで、本当はこんなのを望んでいるのだろうか。

「焦凍くん、こんな私嫌い?」
「き、嫌いじゃ…ねえけど、でも、その、」

悲しそうな顔をするなまえを直視したくない。そんな顔をされると胸が苦しくなる。そうだ、これは夢なんだ。もっとフラットに考えるんだ。高校生だし、お互い実家暮らしなんだから、こういう機会は学生の間は無いだろう。授業も忙しいし。夢の中でぐらい、二人きりで触れ合っていたーーーー

「お前ら起きろ」
「あー!!現実なんてゴミだ!!!」

瞼が軽い。峰田が叫んだことで、全員一斉に夢から覚めた。なまえの個性は質が悪い。ただの夢ならまだしも、個性により見る夢の中では意識がある。意識があるから余計に夢が居心地いいのだ。峰田が何を考えてみていたのかは裕に想像できた。

「いい加減、個性コントロールしてくれよ!!」
「ごめんって!!」

ブーイングが飛んで、照れてるだろうなまえの顔が見れない。見れるわけがない。だって、あんな夢を見た直後だしな。あー……。

「轟顔真っ赤じゃん!何見てたんだよ」
「それ以上首突っ込むと凍らすぞ」
「あ、すんません」





なまえの発作とも言える、頬つねりが近頃めっきり減った。いいことだ。でも心配事が減った今、気が弛んでいるのかああいう夢ばかり見てしまう。欲求不満か、俺は。

「轟くん、手繋いでもいい?」
「……ああ」

そう。何もあんなことをしなくても、こうやって手を繋ぐだけでいい。やっとなまえが俺と付き合ってることを認識して、現実として見れてきたんだ。このまま迫ったら、どうせまた同じ事を繰り返すだけ。焦らなくていい。焦らなくていいんだけど。

“焦凍くん“

頭に浮かんでるのはなまえに違いないのに、何だか浮気してるみたいだ。横に振って邪念を追い払う。別になまえの肌なんて見たことないんだから、あれは妄想だ。照れるな照れるな。「轟くん?」あまりに真剣に考えていたせいか、なまえの話を聞いていなかったらしい。ここのところいつもそうだった。

「……なんか、最近上の空だね。目も合わせてくれないし…、私が何かしたなら、教えて…ほしいな」

はっ。もしかして、誤解されているのか…!?今!!俺はなまえに心配されている…!!落雷でも落ちたくらいの衝撃だった。違う、違うんだ。なまえのことを考えてはいるんだけども、いや、あの仮初めのなまえはなまえじゃなくて、別にやりたいとかそんなことも思ってねえ!

「な、名前!」
「……え?」
「えっと、そ、そろそろ名前で…呼んで、くれ」
「!」

どさくさに紛れて、名前呼びを要求してしまった。なまえは目線をさ迷わせつつ、戸惑った声で「しょ、しょーとくん」と確認するように言った。そして、にっこりと唇が弧を描くと、満面の笑顔で「焦凍くん」と呼んだ。本日2度目の、全身を駆け巡る衝撃。ぐわっと俺を飲み込むように飛びかかってきたその興奮は、夢の中のなまえを打ち消した。

ああ、そうか。多分なまえと寝たいとかそんなんじゃなくて、名前で呼ばれたかっただけなんだ。

「えへへ、なんかくすぐったいね」
「そうか?」

嘘だ。

あの日から卑猥な夢は見なくなったが、その代わり殺伐な夢を見るようになった。なまえと2人きりになるために、親父をあの手この手で倒す夢だ。1度も倒すことができず、なまえは親父に拐われてフェードアウトする。この個性って幸せな夢を見るだけじゃねえのかよ…!!





いつもご訪問していただきありがとうございます!頭をぶつけること、頬をつねることは辞めれたんですが、その代わり轟くんに負担がいくという……。この2人はずっと問題がありますね。きっと、今後もいちゃらぶ展開のときになったら「こんなの夢に決まってる」病が再発するに違いありません。本当に轟くんはこういう慣れてない感が似合います。頭の中では考えてるけど口数は少ないみたいな。かわいい。楽しいリクエストをありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします。


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