さよなら青い僕


※短編「そんな君がずっと好きだった」続編



恥ずかしい告白をしてから2週間ほど経った頃、やっとお互いの予定が合って、初!デート!をすることになった。初デートだぜ!?初デート!当日5日前からクラスメイトに自慢しまくって、相談しまくってたら、ついに訓練中にぼこぼこにされた。集中攻撃とか酷くね!?飯田にも蹴られたし、緑谷にも殴られた。そんな俺酷かったか!?特に峰田からは当たりが強かった。まあ、あいつは僻みだから仕方ねえ。峰田が初デートで浮かれてウザかったら同じことしてる。

しかし、そんな集中攻撃を物ともしないほど、俺は浮かれきっていた。本当は毎日とはいわないけど、3日に一度くらいは電話したかったし、ラインだって頻繁にやり取りしたかった。だけど、みょうじが「せっかく雄英受かったんだから学業優先!」と言うもんで。だって、みょうじは、雄英落ちたからなァ……。厳正な試験の上だけど、ちょっと気遣っちまう。いや、確かに恋愛事に現を抜かしてる暇はねーんだけどよ………。テスト、酷いし……。

「上鳴くん、お待たせ!」

しかぁし!今日はデート!なんたって、デート!うっひょおい!!

「お、おう。なんつーか、久しぶりだな」
「って言っても、2週間だけでしょ。ね、早く映画観に行こうよ!」
「何観るか決めてきたん?」
「もう今観るとしたらアレしかないじゃん!」

ああ……みょうじ可愛いなぁ……。疲れもふっ飛ぶっつーか……。2週間だけって、お前。どんだけ長ぇと思ってんだ。俺にとっては二倍に感じるってのに。みょうじが携帯画面を操作して、俺に観たい映画の公式ホームページを突き付けた。今やってるのと言えば、少女漫画の実写化……とかか?俺は全然イケるけどな。おもしろいらしいし。と、予想は大幅に外れ、画面に映っているのは、オールマイトとエンデヴァーが対になって大きく載っていて、その周りをプロヒーローが囲んでいる絵だった。

「ヒーローコメディ映画!『ヒーローだらけの仁義なき闘い』!」
「………あー、やっぱみょうじってみょうじだわ」

このヒーローオタクが!緑谷染みたヒーローオタクのせいで、彼氏できなかったの知ってるぞ!ありがとうございます!おかげでライバルは居なかった!

それにしても、たとえ映画観たさであろうと、俺と手を繋いで歩いてくれるのは嬉しい。早く行こうと急かす度に、みょうじの力が強くなっていく。映画館に着かなかったらいいのに。それも虚しく、あっという間に木椰区のショッピングモールに着いた。

映画館に着くなり、みょうじがグッズコーナーに移動して、「これ可愛くない!?買おうかなぁ!」とオールマイトとエンデヴァーのぬいぐるみを抱えている。もっと雰囲気頑張れよ。………でも、これがみょうじらしいや。一人だけ意識してばっか見てえ。今更だけど。





「オールマイト超演技下手だったね!」
「あれ絶対カンペ見てるよなー」

映画を見終わって、フードコートに移動し、遅めの昼食を取った。俺はハンバーガーで、みょうじがパスタ。こう…もっと雰囲気のいいカフェ…とも思ったけど、二人とも学生なもんでフードコートにした。

映画は死ぬほどおもしろかった。なまじっか映画館なもんで、「笑ってはいけない映画館」みたいになってたけど、笑えるシーンが来る度にみょうじが、いちいち俺の肩を叩いて笑うものだから気が気でなかった。

「DVD出たらさ、一緒にうちで観ようよ。家だったらいくら笑っても大丈夫だし」
「えっ!?い、家…!?」
「嫌?」
「いっ…嫌なわけねえだろ!」
「何考えてんの、バカ。変なことしないでよ?」
「し!しねえよ!お前こそ何考えてんだ!」

みょうじが体を隠すような仕草をして、咎めるような目で睨んでくる。必死で隠したものの、内心では「嘘です!えろいこと考えてました!」と即答した。ちなみに頭の中での俺は土下座もしている。だからこれで許してほしい。多分、バレているんだろう。みょうじがおかしそうに笑った。

「はー、上鳴くんって本当わかりやすいよね。そういえば、先生がさぁーー」

あれ。と、話しているときに、気がついた。こいつ雄英の話聞かねえんだなって。実を言うと、あんまりテンパらないように、いろいろ話題を考えてきたのだ。オールマイトのことを聞かれたらあの話をしよう、授業のことを聞かれたらあの話をしようって。それの1つもまだ言えてない。まあ、そりゃ……まだ無理かな。つい最近のことだしな。俺はバカだから、ついポロッと言っちまうかもしれねえけど、出来るだけ口に出さないようにしよう。気まずくなるのは嫌だ。空気が悪くなるのは嫌なんだ、俺は。

「ああ、別に雄英落ちたのはもう、気にしてないよ」
「えっ?」
「上鳴くん今百面相してて、『珍しく気遣ってくれてるんだな』って思って」
「珍しくってなんだよ。俺だって空気ぐらい読めんぞ!」
「私が雄英のこと聞かないのはねー、やきもきするから!女の子の名前聞くと!無駄に不安になるでしょ。だから聞ーかない」

そう言って、紅茶を飲んだ。ソファー席なので、俺は勢いよく隣に雪崩れ込んだ。みょうじが「大丈夫?」と声をかけてくれたが、何も大丈夫じゃない。

「ハァ!?何なのお前!ほんと何なの!?」
「あんまり大声出さないでよ」
「そんなに可愛いこと言っちゃって!俺を殺したいの!?」
「もう、だから大声出さないでってば」

ソファーをバシバシ叩きながら抗議するが、みょうじはひたすら静かにしろと言うばかりで、照れる様子もない。もっと照れろよ!俺一人バカみたいだろ!

バカみたいに悶えていると、パッと視線を上げた先には、少し照れたように笑うみょうじがいた。は?ツンデレかよお前。そういうのはさぁ、俺の見てないところじゃなくて見てるところでしろよ。

「もうほんとマジ好き……」
「はぁー!?ちょっと、恥ずかしいこと言わないでよ!」
「お前が悪い!」
「どこが!?」

全部だよ!全部お前が悪くて、ずるくて、そういうところ全部好きだ!

ぎゃんぎゃん会話していると、周りの視線が痛いことに気づいた。いくら家族連れも多くて賑やかだからって、痴話喧嘩なんて聞きたくはないだろう。途端に恥ずかしくなって、急いで店を出た。何だかくすぐったい気持ちで、他のところを回ることもなく、帰路についた。

もっといろんなところを、みょうじと見て回りたかったと思うけど、すごく楽しかった。一生分かってくらいドキドキしたし。こういうのが、次もその次も、ずっとあるんだなと思うとすげぇ嬉しい。一日を振り返っていると、ふと手を繋ぎたい気持ちが出てきた。然り気無く……出来るだけ自然に手を伸ばす。指に触れると、少しみょうじの体が強ばったが、拒否はしなかった。しっかりと握る。

あーーー、あー、もう。俺、幸せ。ほんとに。明日からにやけ止まんなくて、相澤先生に怒られるやつだ。

「あ……、私、ここで……」
「マジか」

名残惜しそうに聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。曲がり角の先を見据えて、みょうじが足を止めた。ここで別れたらまた当分会えねえのか……。もっと早く手繋いどきゃよかった。

「……じゃ、また今度だな」
「うん……」

またメールするから、と言っても、何故かみょうじは動かない。何だ?何か言いてえことでもあんのかな。袖を引かれたので、みょうじに顔を近づけると、顔を上げて真っ赤な顔で言われた。

「……私も!寂しいんですけど!?」
「……はい?」
「その、し、しないでいいのかなーって!」
「何を?」
「だから、えっと、………き、きすとか………」

…………。やばい、膝から崩れ落ちかけた。いや、ずっと片想いしてた女子と付き合えた挙げ句、初デートでキスねだられるって何!?マジで何!?峰田が聞いたら吐血しながら首締められるくらいやべえよ、この状況!

やっちまっていいんすか!?そ、外なんだけど一応!

頭の中で誰かに相談すると、理性の自分がゴーサインを出してきた。マジか。やっちまっていいのか……。みょうじの肩を掴んで、腰を屈めた。キスの体勢とかわかんねーよ、もう。

やっぱり毎日会えなくていいかもしれない。そんなに会ってたら、きっと、幸せで死んでしまう。摂取過多ですぐにいっぱいになってしまう。それでは勿体無い。たまに会って、この幸せを噛みしめたい。

そう思いながら、みょうじにキスをした。





いつもご訪問していただき、ありがとうございます!遅くなって申し訳ありません。甘く……なっているんでしょうか。頭の中でごちゃごちゃ考えてるけど、結局かっこつかない上鳴くんが書けてよかったです。かっこつかない上鳴くんが大好き。前回に引き続き、ヒロインの方がちょっと上手なのがポイントですね。ずっと初々しい雰囲気で続いていってほしいです。楽しいリクエストをありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします。

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