彼はもちを焼いている


どうしてやろうか、この携帯。

あいつがトイレに行っている隙に取った携帯を弄る。この俺が来てやってるっつーに、あいつときたら、ずっと携帯弄りやがって。人がいんだからやめろよ。常識ねえのか。今頃、無い無いと焦っているに違いない。机に放って寝に入ると、あいつの携帯が鳴った。……一体、誰と連絡してやがんだ。

『八百万百:次の日曜日はどうでしょう?』

………八百万って、誰だ。妙に聞き覚えのある名前に、通知を押してラインを開く。ロックしてないあいつが悪い。グループ名は"1A女子会"。待て、あいつはA組じゃねえだろ。あんなやつがヒーロー科入っても、すぐ死ぬだろうが。

ラインを遡っていけば、大体の概要はわかってきた。名前だけではほとんど顔がわからなかったが、要はこいつらとどっか行く予定を立ててんだろ。だからあんな楽しそうに打ってやがったのか。もっと優先するもんがあんだろ。

「…………」

日曜。日曜か。登山道具を新調しようと思ってたんだよな、そういえば。

『おい』
『勝手に予定立ててんじゃねえ。なまえじゃなくて俺を通せ』
『葉隠さんだよ!:誰?』
『梅雨ちゃん:爆豪ちゃんかしら』
『ちゃん付けすんな』

爆豪くんだ、そうでしかありえない、と好き勝手ほざきやがる。やっぱり女はうるせえな。

『おちゃこ:ええやん。いつも爆豪くんと居るし』
『あしど:1日くらいいいじゃん!爆豪心せっま!』
『んだとコラ広大だわ』

文句を垂れる字面に、思わず画面を割りたくなってくる。やっぱりあいつとクラスの奴等を会わせるんじゃなかった。ヒーロー科だからか、いちいち突っ掛かってくる奴が多すぎる。

『その日は俺と出掛けんだよ。ひっこめ』
『響香:みょうじそんなこと言ってなかったよ』
『あしど:爆豪ばっかずるーい!みょうじも女子と遊びたいって!』
『梅雨ちゃん:もしかして』

ぷつりと切れたままの言葉に、先を待つ。

『梅雨ちゃん:爆豪ちゃん妬いてるの?』

思わず携帯を壁にぶん投げた。ガァンッ、と鈍い音が鳴ったが、画面が割れているだけで、壊れてはいないらしい。最近の携帯は、個性による損失を防ぐため、ある程度の衝撃には耐えられるから便利だ。それを拾い上げて画面を睨み付ける。うっかりしていると爆破しそうだ。

「誰が、誰に嫉妬してるって…!?」

ミシミシと側面が悲鳴を上げた。

『おちゃこ:嫉妬?』
『梅雨ちゃん:この会話昨日からずっとしてるもの』
『あしど:なるほど〜』
『八百万百:携帯を離さなくて相手にされなかったんですね』
『葉隠さんだよ!:爆豪くんも意外と可愛いとこあるんだね!』
『響香:女子に嫉妬すんのもねぇ…』

ピコンピコンと、鈴なりにメッセージが追加されていく。好き勝手言いやがって…!俺があいつのためにンなこと考えっかよ!!!ふっざけんなクソ!!!!床に力任せに叩きつけると、今度こそ携帯は基盤を見せた。肩で息をし、ベッドにどかりと腰かける。

「誰がすんだよ、んなもん……」

何焦ってんだ俺は。本当に妬いてるみてぇじゃねえか。謂わば俺は上司みたいなもんなのに、そっちのけで携帯なんか弄ってるあいつが悪い。何のために俺んとこ来てんだよ。俺がいなかったら、あいつらとも話せてねえくせに。捨てられたくねえくせに、未だに自分からしようとしてこない。本気でやれよもっと。マグロかてめぇは。あいつはただ黙って、俺に尻尾振ってりゃいいんだよ。

「勝手にどこでも行きやがれ………」

でも、腹立ったから、次の日曜は荷物持ちに連れていく。すっげぇ重てぇもん持たせてやらぁ。覚悟しとけ。





いつもご訪問していただきありがとうございます!他のリクエストでモブに嫉妬(?)するかっちゃんを書いたので、嫉妬相手を女子にしてみました。携帯壊しちゃったけど、どうするのかはわかりません。(投げやり) 携帯壊されたり、みんなと遊べなかったり、荷物持ちに使われたり踏んだり蹴ったりですが、相手がかっちゃんなのでしょうがないですね。楽しいリクエストをありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします。


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