赤い糸を断ち切った人



「爆豪ってさ、何でそんなにみょうじ虐めんの?」

どこかの端役が、勇猛果敢にそう切り出した。当然のごとく爆豪は彼の名前を思い出せなかったが、自分のやっていることにケチをつけられるのが、どうにも許せなかった。返事をするのでさえ煩わしい。適当に無視をしていると、聞いてもないのに彼は続けた。

「個性使えないし、暗いけどさぁ、普通に可愛いじゃん。俺ああいう子好きなんだよね」

教室の隅で、特に興味なさげに本を開いているなまえを見ながら言う姿に、何を血迷ったのかと爆豪は思った。「趣味悪ぃ」と感想を述べ、視線を逸らす。

顔がどうとか彼の好みは知らないが、とにかくなまえには可愛いげがない。つついても反応など返ってこないし、たまに話したかと思えば、空返事や相槌である。軽そうに言ってはいるものの、熱にでも浮かされたようになまえを見ている姿を見ると、頭が悪いんじゃないかと疑ってしまう。

「告白してみよっかな。オッケーもらえそう」

勝手にしろよ、と思う反面、何だかおもしろくない。暗いし地味だしすぐにパシりにできるほど流されやすいし、押しにも弱そうな彼女が、突然の告白を断れるはずがない。諦めたような目で「あ、はい」と言いそうなのが目に見えている。反応はないけれど、都合のいいパシりが名前もわからないモブに取られるのだ。置いといた自分のおもちゃを、勝手に遊ばれているようで嫌な気分だった。

その放課後、早速実行に移したのか、ベタな中庭で告白しているところに偶然通りかかった。案の定なまえの反応は薄かったが、それでも少し頬を染めていて照れているようだった。まさかそんな顔をするとは思っていなかったので、邪魔をしてやろうという気持ちが起きた。出来損ないのくせに、何を幸せそうな顔してやがる、と。

「……わ、私でよかったら……」

予想通り断らなかったなまえに、思わず口角が釣り上がった。

「よー、成功したのか」
「おっ爆豪。まぁなー。初カノだぜ、初カノ」
「へーえ。罰ゲームにしちゃあ、頑張ったんじゃねーの」
「は?」

普段の爆豪とは思えないくらい、不似合いな笑顔を張り付けて、“罰ゲーム“という不吉な単語を出した。罰ゲームで告白、なんてありそうでないようで、ないようでありそうなゲーム名を出され、なまえの顔が曇った。それが見てとれるから、爆豪の機嫌が良くなった。

「いや、罰ゲームとかじゃーー」
「もしかして本気にしたんじゃねえの?てめぇみたいな世間に役に立たない出来損ないを、本気で相手にするわけねえだろバーカ」

なまえの顔がどんどん下に俯いていく。前髪で目は見えないものの、下唇を噛んでいるのがわかった爆豪はそれだけで声を上げて笑いそうになった。

「………ごめん、本気にして。じゃあ、」
「あっ、みょうじ!待てって!」

男子生徒の制止も聞かず、なまえは走ってその場を去った。初めて必要としてくれたと思ったのに、やっぱり自分はそういう立場なんだと、改めて突き付けられた。爆豪は肩を落とすクラスメイトを見てほくそ笑んだ。別になまえが誰と付き合おうが、もしくは弄ばれようが、爆豪にメリットもデメリットもない。だが、自分の前ではけして見れない顔を、爆豪よりも下の奴等に見せているのが不愉快だった。

「何で邪魔すんだよ、爆豪!」
「は?」

自分よりも下にいるくせに、一丁前に文句をつけてくる。ギラリと目尻を釣り上げて、威嚇のためか個性を使った。凄まじい威力に男子生徒の腰が抜ける。彼には、どうして爆豪が怒っているのか理解できない。

「てめぇこそ、何余計な真似してんだよ。目に余んだよ雑魚が」
「い、いいだろ!爆豪のもんじゃあるまいし!」

モブの癖に勇気がある彼は、キレる爆豪に食って掛かった。怯まない相手に対して爆豪は、彼の目の前で爆破する。顔に被害がないのが不思議なくらい、とても近い距離での爆破は、相手を牽制するのに効果的だった。

「だからって、てめぇが手を出していいことにはならねぇ」

人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られて死んでしまえという諺がある。しかし、この数ヵ月後、なまえは爆豪の"物"になってしまうので、この男子生徒は助かってよかったと思うべきだろう。早めに退場できて運がよかった。





いつもご訪問していただきありがとうございます!モブのくせにすごい度胸のある男子生徒が出てきました。並みのメンタルでは無理です。イライラするどころか、めちゃくちゃ邪魔をしてくるかっちゃんが、1話を彷彿とさせるような性格で書けたので嬉しいです。絶対釘刺して来そう。ヒロインが可哀想ですね………。とても楽しいリクエストをありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします。


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