俺のかわいい友人様


※3万打企画「俺らのかっこいい友達様」続編


「………上鳴遅ぇなぁ」
「だなぁ……」

今日はいつもの3人で、ゲーセンで遊ぶ予定だった。待ち合わせは午前11時。現在11時30分。上鳴から電話もラインもなく、なまえと2人で待っている。その間も、いつも通りなまえは見知らぬ女子に囲まれたりしている。さっきはモデルのスカウトをやっていると言う話も出た。なまえのためにも、こんな人通りの多いところから立ち去りたいが、上鳴が来ないことにはどうもならない。

「なまえさぁ、せめて格好どうにかならねぇ?何かもっとこう…地味っぽい色とかあるじゃん」
「これでも結構落ち着いてる方だぞ。私も目立たない方がいいんだが、店員さんがこういうのしか持ってこないんだ」

なまえは、どこで買ったんだと問い質したいくらい、男の俺から見てもかっこいい服を着ている。雑誌のスナップを撮りたい、って言ってくるのも頷けるほどだ。色はそこまで派手ではないものの、アクセサリーやら何やらでクールに決まっている。もっとラフな格好で来れないもんか。俺らと並ぶと浮いてるんだよなあ、こいつ。

「もうネットで買えよ…」
「でも、試着しないことには買いづらい。それに、私も普通にショッピングがしたい!」
「じゃあ今度俺らが着いてってやるよ。上鳴だったらそういうの詳しいだろうし」
「! だったら安心だな!切島たちが居たら、あまり人が寄ってこないから丁度いい」

気分が良さそうに笑うが、こいつがそうすると更に周りから見られるから複雑だ。笑うなとも言えないし…。もう知らね!上鳴は明日学校で怒る。

「先行くか。上鳴に、また何か奢ってもらおうぜ」
「そうしよう!何奢ってもらおうかなー」

今日だって、他の奴誘っても誰も来てくれなかったな。「恥ずかしい」とか「何着たらいいかわからない」とか、「隣に並びたくない」とか。こいつ、普通なのに。普通にジャージとか着てくりゃいいのにな。それはないか。

ゲーセン。こんなところに来たことがないらしいなまえは、店内に入るなり耳を塞いだ。鼓膜を裂くかと思うくらいの騒音など、聞いたこともなかったのだろう。パクパクと口を動かしているけど、残念ながら音が邪魔をして聞こえなかった。よっしゃ、まずは格ゲーだ!壁に嵌めてぼろ負けさせてやるぜ!

「……うぐ、あ、危ない!ヤバイ!切島ずるいぞ!ああ!死ぬ!!頑張れ!……ああ、あー、死んだ……」
「お前うるせぇなー」
「卑怯だぞ切島!私が必殺技を繰り出そうとした途端、殴ってくるなんて…!」
「みすみす必殺技なんて打たせるかよ!」
「くそ!もう1回だ!もう1回!!」

多分次も俺の勝ちだ。なまえは意外と記憶力がないのか、それとも記憶力がいいからできないのか、単純な攻撃しかしてこない。操作も簡単なものしかできないから、だから俺にあっさりと負けてしまう。まあ、この辺は経験の差だな!

もう1ラウンドと、お金を入れてゲームを開始させれば、何故かなまえのキャラクターが猛攻撃を仕掛けてきた。さっきまで初心者のそれだったのに、やけに上手い。おかしい。やべぇ、俺負けんじゃねーか、これ。反撃もできずボカスカやられる内に、すぐにHPが削られて死んだ。

「ありがとう!おかげで、切島に勝てたぞ!」
「いえいえ!そんな!天上人の役に立てて光栄です!」
「いやぁ、しかし強かったなあ」
「あっ、やってもらったな!?お前きたねーぞ!!」

俺のところからなまえが見れないからって、熟練のゲーマーにやってもらうとか、卑怯なのはどっちだよ!!勝てるわけねえだろ!くっそー、やっぱり強ぇなあ!

そこまで怒ってるわけじゃないけど、「なぁ切島怒ってるか?次はリズムゲームしないか。切島の好きなのでいいぞ」と、機嫌を取ろうとしてくるなまえがおもしろいのでそういう風にしておく。俺の得意なのにするとあとで後悔すんぞ。してもしらねーからな。

「じゃあ、これにしようぜ」

選んだのはクレーンゲーム。普段コンビニで売っているのと、10倍くらい大きいお菓子になまえの目が輝いた。こんなん絶対できねえだろ。

「すごい!やる!やるぞ!」

いつになく興奮してお金を入れた。息を巻いてゲームに向き合う。いろんな角度を見て、ボタンを押していくが、1回で取れるわけがなかった。箱を撫でるだけで取れそうな気配もない。なまえは、この難しさに絶句していた。

「こ、これ取れるのか…?」
「上手いやつはすぐ取れる」
「買った方が早いんじゃ…」
「それを言うなって。非売品も多いんだぜ?貸してみ」
「頑張れよ」

あ、これは取れるって信じてねえな。クレーンを動かし、金具が引っ掛かりそうなところで止める。別に全体を掴む必要はない。クレーンが上がると箱の側面をなぞって、溝に金具が入り込んだ。持ち上がって箱が落ちると、なまえが思わず拍手をした。喜びすぎだろ。

「すごい!すごいな切島!何でもできるな!」
「どーよ。一丁上がり!」
「あれ、あれも取ってくれ!」
「はいはい」

ぬいぐるみの方を指しながら、なまえが俺のシャツの裾を引っ張った。途端に後ろから、見知らぬ女子二人の声が聞こえて、一気に顔が赤くなった。は、「カレカノかぁ、残念〜」だって?は?カレカノ?誰がですか?

「どうした切島。あの茶色のやつがいい」
「………あー、はいはい」

こいつと一緒にいて、そんな風に見られたのなんて初めてだ。俺らもそんな風に見れんだなぁ。“カリスマ“なんて個性のせいで、従者だの引き立て役だの言われたことはあるけど、付き合ってるなんて………なぁ?当の本人は気づきもせずに、「やっぱり黒色もいい」とか言ってやがるし。

いつかこいつにも、本当に付き合ってる彼氏とか出来んだろうなぁ。いい奴だし。“カリスマ“なんか物ともしない、かっこよくていい奴しか認めねえからな。

「ほらよ」
「おお…!可愛い!大事にする!ありがとう切島!」
「礼はアイス一本でいいぞ」

俺と上鳴による厳選を勝ち抜けてみせたら、まあ、友人代表として、お前が号泣するようなスピーチをしてやるぜ!






いつもご訪問していただきありがとうございます!「俺らのかっこいい友人様」は、このあと恋愛に発展してもいいし、ずっと三人仲良く友達としていてもいいし、って感じです。だから、友人代表と言いながら、このあと新郎としているかもしれないですよね。特に甘い感じなどの指定がなかったので、このようにさせていただきました。ご期待に添えてなかったらすみません…!でも楽しいリクエストをありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします!

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