ヒーロー事務所の内定をもらったがもう辞めたい件について


思わず顔が引き吊った。いや、まあ、仕事に関して公私混同するわけではないけど、これは………。今日、私は新しく設立されたヒーロー事務所の面接に来た。最新鋭がやっと独立した、今話題のヒーロー事務所だ。社長が気難しいとは聞いていたが………間違ってはないけど……うーん。こう言葉に詰まるのも仕方がない。目の前で偉そうにこちらを伺ってる男は、実家の近くに住んでいた男の子だった。爆豪勝己。良くも悪くも目立っていたのでよく覚えてる。確か、歳は4つほど離れていたはずだ。それこそ小さいときは勝己くんの他に2人、あとは時々出久くんと遊んでいたときもあった。さすがに彼は覚えていないだろう。

「みょうじなまえです。よろしくお願いします」
「座れ」

おお、敬語も使わないのか……。そのまま大人になったようで逆に尊敬する。彼が小学生だったとき、中学生に絡まれていたのを助けたら、「女に助けてもらう趣味はねえ!」とめちゃくちゃ怒られた。場所が場所だったら炎上騒ぎだ。正直、社長が近所の男の子だという時点で、落ちてもいいかなと思っている。

「お前、大学行ったあとどこで何してたんだよ」
「?」

いきなりぶっ飛んだ質問に目が点になる。ははあ、なるほど。こうやって、急に質問を投げ掛けても答えられるような機転を審査しているんだな。

「大学を卒業後、ヒーロー事務所に就職したのはいいんですが…ヒーローとは違う業務に就かされ、疲労困憊で入院していました」
「通りで家に行っても居ねえはずだ」

そう。私が今回ここを受けようと思ったのは、前の職場がブラックだったからだ。途中まではヒーロー活動を行っていたが、途中から違う業務をさせられ、残業続きで給料も安く、ついには入院。命からがら辞めてきて、ここに就職活動をしにきたのだ。まさか、かつての近所の男の子が社長だとは。もう数打ちゃ当たる精神で手当たり次第受けてたのが祟ったな。

というか、家って……。怪訝な顔をしていたのか、勝己くんが思いきり口角を上げた。嫌な予感しかしない。いやもういいです。辞退させてください。

「合格な。明日から来い」

どこまでもゴーイングマイウェイだな。嫌な予感が的中した。それ以上に、覚えていたのがびっくりだけど。

「やっとテメェを顎で使えるんだからな…。みすみす逃すわけねえだろ」

ギラつく目に、思わず「ヒッ」と全身が強ばった。昔から言われていたけど、堅気の顔ではない。敵か。私、勝己くんに何かしたっけ!?

「一生俺の下で飼い殺してやるから覚悟しろ」

首を親指で横切り、そのまま下に向けた。こ、殺される…!!社畜にされる!!!せっかくブラック事務所から逃げてきたのに、こうしてまた、真っ黒な生活が幕を開けるのだった。





いつもご訪問していただきありがとうございます。年上プロヒーロー主と伺って、かっちゃんをどういう立場にしようか悩んだ結果、こうなりました。下克上ですね(違う)。かっちゃんに社畜として飼い殺されるなら喜んで!と言いたいところです。かっちゃんなら、ちゃんと給料払ってくれると信じています。実は探してた、とかね。これで一生手元に措いとける、とかね。いろいろ妄想を付け加えながら読んでいただけたらと思います。楽しいリクエストをありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします。



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