03
「へっくしゅん」
寒い………。
バカなことをした。人生で初めてだ、こんなことは。仕事もままならないなんて。パトロールをしようと電子の海を泳げば、オールマイトの画像や動画、ニュースやファンのメッセージが目に入り込んでくる。見れば、液晶画面越しに楽しいやり取りをした光景が浮かんでくるから、目を逸らし逃げ続けた結果、どこか深いところに来てしまった。ウイルスに遭ったらどうしよう。
本当にバカなことをしてしまった。どうして恋愛感情なんて持ってしまったんだろう、私は。嫌だ。私情を挟んでしまった自分が、嫌で嫌で仕方がない。しかも自分のコメントを消していない。あれをオールマイトに見られたら……彼にも迷惑をかけてしまうに決まってる。改めてこの個性に助けられた。三次元では生きていけない。無機質で、深い心情など関係ない、この電子の世界でずっと居たい。最近は向こうに出てしまうからいけなかった。今まで通りずっと、画面越しであれば、遠い存在だと思えたのに。生身の体で近くに居てしまったから、場違いな想いを抱えてしまったに違いない。
恥ずかしい。消えたい。もうやだ。
膝を抱えたときだった。ひやっと背筋が凍り、辺りを見渡すとウイルスに囲まれていた。危ない。今の体では破壊されてしまう。逃げなければ。私のパソコン(家)までここから遠いが、全速力で逃げれば大丈夫だろう。
ウイルスが向かってくると同時に、上へ逃げた。全速力で飛ぶが、ウイルスは増殖していく。どこか。どこでもいい。適当な場所に出るしかない。
でも、いつもなら開いているはずの画面が、どこもかしこも閉まっている。こんなことはあるはずがない。人がインターネットを開いている数だけ、私には出入り口があるというのに、それが一切ないということは誰も触っていないということだ。大人数の人が、インターネットを使わないなんて、そんなことは今までで一度もない。
「何で、」
じわっと涙が出てきた。
「お、オールマイト……」
この前ウイルスに襲われたときは、オールマイトの画面だけが光ってて助かった。暗い。ずっと電子の海で生きていきたいと思ったけれど、どこを見渡しても真っ暗で怖い。
「オールマイト………!」
やっぱり助けを求めてしまう。彼はやはり強くて頼もしいみんなのヒーローなのだ。
『なまえちゃん!!』
声と共に視界一杯に目映い光が満ち、思わず飛び込んだ。ザバァッと、宛ら水中から陸に上がったかのように現実世界に投げ出される。確認しなくたってわかる。私はまた、オールマイトに助けられた。
「なまえちゃん、大丈夫かい!?」
「お、オールマイト……!」
間近にオールマイトの顔があり、思わず立ち上がった。い、今、いま、オールマイトが私を抱き留めて…!
「ああ、よかった。どこにも君のことを見た人がいなかったから、またウイルスに襲われてるんじゃないかと思ってね。初めてSNSを駆使したよ。あ、なまえちゃんの安否を報告しないと」
「ど、どうして、私のためにそんな大掛かりな…。誰か他の人のところに逃げてもよかったのに……」
「どうしてって……」
オールマイトも立ち上がって、私の背中に手を回した。ひえ、抱き締めるなんてそんな。
「私の可愛いなまえちゃんを助けるのはこの私しかいないだろう?」
オールマイトの、こういうところが嫌い。可愛いなんて言わないでほしい。クールに振る舞っていても実はそうじゃない。舞い上がってしまうからやめて。勘違いしちゃうからやめて。
「頭の悪いオジサンですまないが、やっぱりなまえちゃんがいないと困ることが多くてね。なまえちゃんさえよければ、ずっと私の側でサポートしてくれないかな。仕事も、これからの人生も」
頭をぽんぽんと撫でながら、目を合わせて言われると、オールマイトが本気で私に言っているんだと実感した。私なんかが居てもいいんですか。素晴らしいあなたの側に。
「オールマイトは、おじさんじゃないです……」
嬉しくて、嬉しくて、少女のようにわんわんと泣きながら、そう言い返すので精一杯だった。好き。好きです。私は本当に幸せです。
いつもご訪問していただきありがとうございます!すごく長くなってしまい、申し訳ありません!ヒロインは真面目だからこうなるかなぁ、と詰め込んでいったらこうなりました。オールマイトの口調が怪しすぎてヤバいですね。好きなんですけど、まだまだ模索中です……。たくさんの方に気に入ってもらえてとても嬉しいです。リクエストありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします!
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