不眠症だったはずのベルトルト

ふと目を覚ます。
今日は訓練のない休日だったので、食堂の裏手で本を読んでいたのだけどいつの間にか眠っていたみたいだ。ちょうど高く上がった陽が下りてきてるくらいの時間帯。心地いい日向になっていて絶好の日向ぼっこ日和だ、なんて現実逃避をする。

いるのだ。何がって、何かが。私の腹の上に重い物を乗せて。そう、この重さはちょうど人の頭くらいだ。嘘、人の頭の重さなんて知らない。目に入ったから分かるんだ。

「べ、ベルトルト・フーバー、さん…だよね」

人の腹を枕にすやすやと寝ている。どうしてこうなったんだ。少なくとも同期の訓練兵という以外にこの人と接点はなかったはず。話した事もなければ対人格闘技で手合いする事すらないのだ。
とても緊張しているぞ私。ただでさえ社交的ではない性格故、今ここでフーバーさんを起こすのではなく勝手に起きて勝手に去って欲しい。話し掛けても絶対どもっちゃうし、そんな恥ずかしいところ見せてられない。

どうしたもんか、と上げてた首が疲れたので寝かす。今の状態はTの字のような感じだろう。変なの。私が枕か。因みにフーバーさんの顔はこちらをむいていて、目を覚まされると私が焦ってしまう。

再び彼へ視線を向ける。あー意外と整ってんなーとか鼻高い、黒髪似合うよなぁなんて見つめているけど結局首が痛くなって下ろした。
東洋人の私はアッカーマンとは違い、純東洋人なのでアッカーマンほど鼻筋も通ってなければ顔立ちもよくない。だから彼女と比較されるのが嫌でその事実を隠していた。彼、フーバーさんも黒髪で東洋人らしい謙虚な面があったのでもしや、なんて思っていたけど全然違うわ。全然。綺麗な顔してるだろ、死んでるんだぜ、なんて事もないのでこの世はとても不平等でつまらない。

「フーバーさんも東洋人じゃないのかぁ」

仲間だと思ったんだけどなぁ、と零す。
青い空に白い雲のコントラストがいい。
腹の上にある頭を何も考えずに空を見上げながら、ただ何と無く撫でていた。ただ本当に何も考えずぼーっとしていたので、起こさないように撫でる、なんて気遣いすら思いつかなかった。

「ホーホケキョ」

あれはたしかウグイスという鳥だったか。今は亡きお父さんが教えてくれた口笛でできる鳥の鳴き声。小さい頃、上手く口笛ができない私は口でその鳴き声を反覆することしかできなかった。

その事をふと思い出して口に出したのだけど、今ならレベルも上がっただろうしきっとできる。
そう意気込んで息を吸い、口を尖らせて挑戦してみるものの、そう上手くはできなかった。

口笛に集中し過ぎて、先程から撫でていた手の動きは既に止めていた。

「続けていてくれると、嬉しいんだけど」

思わずえっ、と驚く。目線を腹に戻すと、とろんとした目をしてるフーバーさんが私を見ていた。

「頭、撫でて…気持ちよかったから」

「は、はい」

子供みたいだな、なんて考えつつも今度は手に集中する。
さっきみたいに相手が寝てるからと何と無く撫でてしまうのはだめだ、優しく、懇切丁寧に。そう心掛けていると、腹から重みが 手から感覚が消えた。

フーバーさんが起き上がったようだ。

むくりと私の上から退いてるので、私も体制を直すように座る。するとフーバーさんは不満ありありと言った表情でじと、と見てきていた。

「な、なんでしょうか…」

「…さっきみたいに撫でてって、言ったでしょ。変に気を使わなくていいから、さっきみたいに」

「え、えと…」

言いながら、半分私の方へ向き、つまり斜めの方向へ向きながらその大きな体をのしかかるように寄せてきた。
どうやらまだ寝たいようで、頭はうな垂れている。けどそれが逆に撫でる位置としては低くなったので助かった。
先程のように、と空を見上げて何も考えないようにして撫でる。意識しちゃうとだめだなぁ、とは思うものの、これでいい、大丈夫。と自分に言い聞かせて撫で続けたら知らない内にすーすーと寝息が聞こえていた。ぼ、ぼーっとしすぎだよ私!

陽は赤くなり掛けている。
夜になる前に起きてくれるといいなと思いつつも、寝ているとはいえ私に擦り寄るように身動ぎをされる度ドキッと高鳴る心臓に正直になるしかなかったのだった。





***

「なまえ、眠い…」
「大丈夫?」
「なまえが、人前だと恥ずかしいからだめって言うからだよ」
「だっ、だって…もうっおやすみ」
「ん…おやすみ」


「…なぁ、ライナー、なまえとベルトルトって仲良かったっけ?」
「さぁな。ただ何回かベルトルトに膝枕してやってる姿は見たことあるが…俺が聞きたいくらいだぜ」
「ふーん…変な組み合わせだな」


「(ブラウンくん、イェーガーくん、聞こえてるよ…)」




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