12*
「平気じゃ、……っ、ん」
恵の限界を悟ったジョンが、追い打ちをかけるように乳首を口に含む。舌先で小刻みに舐められると、精の放逐が迫った耐え性のない身体はぶるりと震えた。
「い、……、く」
人の手がもたらす快楽は抗いようがなく、駆け上がってきた射精感に身を任せる。
出し切って大きく息を吐き出すと、ジョンは手の平を握ってから開き、白濁を恵に見せつけた。
「見て、マスター。俺に触られるの気持ちよかったでしょ」
「見せんなよ……」
「俺の方がいいでしょ。夢の中の奴より、俺のが……マスターのこと、好きだよ」
「うあ!」
出したものを指先へ纏わせたジョンは、それを恵の尻へ滑らせた。窄みを何度も指が掻くけれど、入りそうで入ってこない。
「怖いですか。ここを指で広げて、俺を挿れるのは……嫌ですか、気持ち悪い、ですか」
ジョンは怯えを滲ませ、押さえていた右腕を離す。自由を取り戻した恵は迷いなく男の首に腕をかけ、抱き寄せた。
「馬っ鹿だなあ、お前……」
「マ、スター……っ?」
後ろに男を受け入れるなどという発想自体、恵の中にはなかった。しかし今この場でジョンから逃げることは、もっとありえない。
「いいよ、好きにしろ」
「……っなんで、嫌がらないんですか」
「嫌がってほしいのか?」
「だって……ちゃんと、止めてくれないと、優しいマスターに、俺ばっかり甘えて、それで……あなたばかりが、いつも損をする」
首筋に埋まるジョンの、籠った声が狼狽している。
強引にことを進めて射精までさせたくせに、土壇場になって怖がるジョンが、恵は堪らなく愛らしい生き物に思えた。
「顔上げろ」
柔らかい茶髪を両手で混ぜ、頬を挟んで見つめ合う。男の瞳は不安定に揺らぎ、薄く水気を帯びて潤んでいた。
「夢の中に出てきた奴が、好きだ」
「……はい」
「でも……だけどな、俺が今、笑っててくれって思うのはお前だよ。お前だけなんだよ」
失ってもなお焦がれる記憶を、全て投げ打ってもいいとは言えない。だが恵は嘘偽りなく、ジョンに抱かれることを自然だとも感じていた。
「ここまでされても、ちっとも嫌じゃねえんだ。俺が元々そういう人間なのか、お前だからなのかは……正直わかんねえけど」
「マスター」
「こんな空っぽの俺でよけりゃ、好きなだけくれてやるから」
恵の頬に、ジョンの目頭から溢れた水滴が落ちた。それは頬骨の形に沿って緩やかに流れていき、髪の生え際をささやかに濡らす。
「元からとか、空っぽとか、そういうのは、どうでもよくて」
ジョンは震える唇を噛み、か細くしゃくり上げる。けれど次いで浮かべた表情は、幸福にとろけていた。
「あなたはずっと、あなたです」
塩辛い唇が重なって、身体の力を抜いた。
不足する記憶を埋めるように、隙間を取り払うようにキスをする。男の指が丹念に後孔をくじる間も、夢中になって舌を絡ませ合った。
「っ、マスター」
どれくらいの時間そうしていたのか、ジョンが唇を離したときには完全に息が上がっていた。同時に後ろから指が抜け、圧迫感がなくなって肩を撫で下ろす。
「も、…う、挿れるか……?」
訊ねると、ジョンは肩を抱く恵の腕に抗って身体を起こす。暗がりでもわかるほど彼の目には欲情が宿っており、ギラついていた。
「痛かったら、言ってください。すぐ止めるから……」
「馬鹿野郎、お前はそれでも男か」
甘い目元を細め、ジョンはパンツと下着を膝まで降ろす。逞しい角度を保った男性器が彼の腹を打ち、プクリと鈴口に浮かんだ体液がその身を伝った。
「あなただけです、そうやっていつも、俺を甘やかすのは」
「そうだったか?」
「ええ……だから俺は、こんなに弱虫になってしまいました」
広げた脚の間に陣取るジョンは、無垢な笑みを零す。純朴な表情とは裏腹に、先端のぬめりを自ら擦って馴染ませる姿は淫猥だった。
男の性器が解された穴にピッチリと触れる。
そして恵が深く息を吐き切った瞬間、それは襞を押し広げて中へと侵入を果たした。
「う……っ」
「マスター、ちゃんと息して」
「ああ……心配すんな、大丈夫だから」
短く息を吐いて異物感から意識を背ける恵に、ジョンは三歩進んで二歩下がるようなもどかしい動きを繰り返し、「口癖ですか」と問う。
どう返すのが正解かわからず、恵は途切れ途切れに「そんなわけない」と呟いた。
「痛いときも、つらいときも、俺は言うよ。隠したりしない。言わないときは、痛くもつらくもねえからだ」
「嘘吐き……」
「お前に嘘を吐いたことは一度もねえよ」
反論は無意識に唇を突いて出た。ジョンは目を瞠り、それから泣きそうな顔で笑う。
「ええ。そうですね。そうでしたね。知っていましたよ。あなたはいつだって誠実でした。俺の正しさは、あなたが教えてくれたものだけで作られてた……っ」
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