「改めまして、うちの拓海君だよ。拓海君、こちらは恭也。…って言っても、二人共よく知ってるだろうけどねぇ」
「先に言ってよビックリするからー!」
「マジそれな。アキも人が悪ぃ…心臓止まるかと思った」

結局ビックリしすぎて収拾がつかなくなった俺と和野君をソファに座らせ、アキさんは悪戯大成功!みたいな嬉しそうな顔で仲裁してくれた。

俺と和野君は既にグッタリしてる。だってまさか、アキさんが和野君の義父さんだとは思わないし、和野君がアキさんに写真を見せながら色んな話をするほどファザコンだとは思ってなかった。あ、いやでも、以前「ワイフ」って言ってたから、まさかのそういう関係なのだろうか。それならば、息子が欲しかったんだと言ったアキさんの言葉に納得出来るけど、俺はその辺りに触れないでいようと思う。

まぁでも、今はそんな事よりも。

「えーっと…騒いでごめんねー?和野君、お邪魔してます」
「え、いや、それは全然いーっすけど…むしろホッとしてます。…どんだけ探したと思ってんすか」
「ご、ごめん、ねー…?」

ギクリと跳ねた肩に、アキさんの温かい手が乗せられた。
鋭い和野君の視線は明らかに俺を咎めていて、少し怖い。そりゃそうだ。先輩が突然姿を消して、連絡すらせず、帰省した実家に居たら誰だって憤慨する。

申し訳なくて縮こまる事しか出来ないでいると、向かい側から長い溜め息が聞こえてきた。

「怒ってるわけじゃねぇっすよ。ホッとしてるって言ったっしょ」
「うん…でも、和野君、顔怖いよー…」
「顔の作りは元々っす!きょーや先輩酷くね!?じゃなくて…」

たった一週間前に見ていたけど、懐かしい和野君だ。
彼はガリガリと短く立った金髪を掻き回し、両膝に強く手のひらを叩きつけた。

そしてじっと俺を見て、強張った肩から力を抜く。それに表情も比例して、つり上がった眉を下げて目を細め、薄い唇にくっと笑みを刻んだ。

「すげぇ心配してたんすよ。どこにもいなくて、連絡も取れなくて…正直、どっかで死んでんじゃねーかって、落ち着かなくて…でも、俺帰省日決まってっから、探しにも出れなくて」
「和野君…」
「だから、怒ってないっす。無事でよかった。元気でよかった。また、顔見れてよかったっす」

和野君は腰を上げ、テーブルに身を乗り出して遠慮がちに俺の頭を撫でた。
無骨で大きな手のひらは、少し固い。それでもそれはとても優しくて、俺はじんわりとよくわからないものが込み上げてきた。

「あ。拓海君、恭也泣かした」
「え!?嘘だろ、ちょ、なんで!?」
「うー…っ」
「あぁもうよしよし、怖くないからね、泣かなくていいからねぇ」
「待て、なんだこの俺が悪者な流れ!」

頭上で交わされる会話はトンチンカンだ。和野君はともかく、アキさんは少し楽しそうにも見える。
不良だけど、優しくて気さくで真面目で、本当にいい子だ。そう思ったらじわじわしていただけだった何かが、下瞼の縁を乗り越えて頬を駆けた。

「あは、うぅっ…あははっ、おもしろ、ふ…」
「うーん、泣くか笑うかどっちかにしようか?」

隣にいるアキさんが、袖を伸ばしてグシグシと俺の頬を拭う。ちょっと痛いけど、俺はそれすらも可笑しくて、堪らず笑い転げていた。

「はは、はー…和野君、相変わらずだねー」
「そっすか?きょーや先輩は、変わりましたよ」
「…そう?」
「ん。だって、すげぇ笑うしすげぇ泣くし…生き生きしてて、いい感じっす」
「そっかー」

和野君の言う事が本当なら、それはアキさんと和野君のお陰だ。
ここに来てから、俺は感謝ばかりしている。たまに今までのネガティブな自分が顔を出しそうになっても、アキさんが毎日帰ってきてくれるからへっちゃらだ。

「そーだね、俺…今まで、力みすぎてたのかもしれない」
「力抜けたかな?」
「うん。捨てられたくないなーって思って頑張ってたけど…なんか、アキさんと和野君には、そーゆー怖い気持ちになんないんだ。すごくね…安心、するよ」

胸に両手を当ててみる。
そこは、穏やかな心音を規則正しいリズムで打ち鳴らしていた。

アキさんには迷惑をかけているし、和野君を驚かせたし、実際俺は彼らの家族じゃない。
けれど、何故かここにいてもいいんだって、思わせてくれる何かがここにはあった。

「変、かなー…?」

静かに向けられたままの二対の視線が気恥ずかしくて、俺はニヘラと笑い誤魔化すように首を傾げた。
そうすれば、二人は揃ってゆるりと首を横に振り、それぞれらしい笑みを見せてくれる。

「いや、変じゃないし、良かったっす。で、アキ」
「うん?なぁに?」

しんみりした空気を飛ばすように、和野君はアキさんを見た。俺は相変わらず膝を抱いてアキさんに撫で撫でされながら口を閉じる。
ほら、ね。親子?の会話も見てみたいし。

「ところで、なんでここにきょーや先輩がいんの?」

え、和野君いまさら?

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