16*


 そのとき、中心をぎゅうと強く握られて目を見開いた。

「なっ、ぁ」
「慣れてるって何?」

 繋がるための準備に勤しむ手を掴んで抜かせた諒太は、腹筋を使って起き上がる。急所を締めつけられて引き攣る喉にキスをして、いやに冷静な声色で耳元へ囁きかけた。

「誰に、抱かれ慣れてるの?」
「諒太、離し……っ」
「俺じゃない誰かとしてたみたいに、抱かれようとしないでよ」
「ひ、っん」

 屹立にかかる圧が甘さを帯び、そのまま上下に扱かれる。諒太は同時に自らの指を先ほどと同じように唾液で濡らし、窄まりへ這わせた。大雅にとっては馴染んだ形の指先が、探るように肉壁を掻き分ける。

「俺がするんだよ。ねえ、わかってる? 大ちゃんのここ触るのは俺で、気持ちよくするのも俺なんだよ」
「んんっ、は、はぁ、う……っけど、早く、挿れてえだろ……っ?」
「正直そんなのどうでもいいよ。大ちゃんのアへ顔見れるならイケなくていい。四六時中触ってたい……」

 同じ男として理解のできない主張を真顔で述べられ、呆気にとられる。しかしふとその台詞に結びついたのは、達さないままセックスを終える諒太の満足そうな顔だった。

「んだよ……あれはお前の趣味だったのか」
「何?」
「悩んで損したって話」
「また俺のわかんないこと言ってる」

 ムッとする諒太は、器用に両手を動かしながら乳首を口に含んだ。
 三カ所それぞれから快楽が競り上がり、掠れた嬌声が零れる。諒太の頭を抱きこんだ大雅は、本能的に腰を揺らした。

「りょ、たあ……っ、無理、いっぺんにすんの止めろって、言った、っ」
「ねえ、大ちゃんは俺を嫉妬させてグチャグチャにされたいの?」
「ちっ、げえ……っ」
「いいもんいいもん。めちゃくちゃイカせて今までしてきたエッチ全部上書きするもん」

 駄々を捏ねる子どもみたいな物言いをするくせに、舌にも指にも可愛げはない。
 押し倒しただけで赤面していた初々しさは、どこに消えてしまったのだろう。調子に乗って先輩風を吹かそうとした数分前の己を後悔する大雅は、それから諒太の手管で呆気なく三度吐精させられた。

 力尽きたようにベッドへ倒れこみ、ぜいぜいと息を荒げる。閉じ切ったカーテンの向こう側は、いつの間にか夕陽色が混じり始めていた。

「嘘、だろ……」
「大ちゃん、大丈夫?」
「じゃ、ねえわ、馬鹿……おい、絶対やめろ」

 手の平を汚す白濁を舐めとろうとした諒太は、大雅に睨まれて仕方なさそうにティッシュで拭う。しどけなく開かれたままになっている脚の間へ同様にティッシュを滑らせる手つきは、愛撫を働いたことも忘れてどこまでも丁寧だった。

「疲れたよね。お風呂沸かすから寝てて」

 大雅はニコニコと幸せそうに頭を撫でてくる男をじっと見上げていたが、無言で諒太の股間を痛くない程度に掴む。すると男は息をのみ、紳士ぶって履き直したジーンズの中でガチガチになった肉棒を跳ねさせた。

「何、すんの……」
「しねえの」

 恐らくこの身体は未開通だが、大雅自身が抱かれ慣れていることと、しつこく解されたおかげで男を受け入れる準備はできている。
 重い身体で這いずり、諒太の膝に寝そべった大雅は、固まる男をぼんやりと見上げた。

「食ってもらえねえ据え膳って、それもう廃棄だと思わねえ?」
「……っなんてこと言うかな!」

 再びベッドへ押しこめられた大雅は、ひっそりとほくそ笑んで男の背を抱く。
自分で留め直したくせに、焦ってベルトをうまく外せない諒太は誰がなんと言おうと可愛かった。

「大ちゃんの馬鹿っ、もう知らないから、どうなっても大ちゃんの自業自得だからっ」
「ああ、いいよ。なんでもいいから、早く」

 おざなりに寛げたジーンズのフロントから、カウパー液で先端をてからせた怒張が顔を出す。ずっしりと重そうな男性器を見て喉を鳴らした大雅は、つまらない矜持よりも大切にしたいものを強く抱き締めた。

「早く……諒太、ケツが寂しい」
「黙ってて、てば……!」

 片腕に大雅の脚を引っかけ、反対の腕で頭を抱きこんだ諒太は、腰を動かして先端を後孔に宛がう。それから間髪入れず挿入された質量に、大雅は呼吸を忘れた。酸欠の金魚のように口をはくはくと開閉させ、腹の奥で存在を主張する熱に喘ぐ。
 解けかけた後頭部の髪を力任せに掴まれる痛みですら、律動に憑かれた諒太の興奮がさせているのだと思うと気持ちがよかった。

「ひ、ぃ……っあ、は」
「ヤ、バ……っ気持ちいい、どうしよ、大ちゃん……っ」

 喘ぎ混じりの溜め息と共に、諒太の舌が大雅の耳朶をなぞる。小さな穴に捩じこまれると酷い水音が背筋をぞわつかせ、肉棒を食む後孔がぎゅうと締まる。すると男のストロークが激しさを増し、粘膜を擦られる快楽が内壁を収縮させた。

 深い悦楽の繰り返しに悶える二人は恍惚をひたすら蓄積させ、放逐の境目が曖昧なまま、動けなくなるまで身体を繋げ続けた。


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