15*


「ねえ、どういうこと? 好きな人は……?」
「あ、れも、お前。わかんね、だろうから……いつか、話してやる」

 途切れ途切れに言い終えると、諒太は大雅を抱き締めたままゴロリと横転する。大雅を押し倒し返す男の顔は赤らんでいるが、眉を寄せているせいで照れているのか怒っているのかわかりづらかった。

「全然わかんないけど、でも、つまり大ちゃんは俺だけってこと?」
「おう」
「神様ありがとう……」

 脱力して大雅の胸元に顔面から突っ伏す男は、長い息を吐き出している。強引に想いを告げてきた勢いがなりを潜めると、馴染み深い弱々しさに目がいった。

 諒太の言う通り、大雅はヒーロー気質なのだろう。守りたい、大切にしたい、幸せにしたい――性懲りもなく沸き起こる庇護欲は尽きそうにない。しかしそれは諒太が弱い存在であるからではない。諒太が諒太だからだ。

「なあ……お前の幸せって何?」

 顔を上げた諒太が、にじり上がってきて触れるだけのキスをする。清々しい笑顔には、幼い頃から大雅を惹きつけて止まない愛らしさがあった。

「大ちゃんが傍にいること」

 堪らない気持ちになって、諒太の頭を抱きこんでキスを返した。唇を啄み、誘い出した舌を含んで甘噛みする。
 息を詰めた諒太は、キスを止めると熱に浮かされたように鼻先を擦り合わせた。

「どうしよ、大ちゃんのベロ美味しい……」
「お前それガチで変態くせえ。男相手に……」
「俺にとって大事なのはそこじゃないもん」

 何かを強請るように大雅の唇を食みながら、諒太はなまめかしく口角を上げる。

「大ちゃんか、そうじゃないか、だよ」
「ああ……それは俺にもわかる」
「俺の大ちゃんになる?」
「とっくにお前のもんだったろ」

 幸せそうに目尻を垂れ下げ、諒太は噛みつくようにまたキスをした。拙さの拭えない手つきで身体を弄られる大雅は力を抜き、自ら脚を開いて男の腰を挟む。

「こいよ」

 余裕の表情で誘うと、男の喉から獣のような唸り声が鳴る。愛らしい目元に雄を漂わせる諒太の姿は、過去最高に大雅を興奮させた。

「大ちゃ……大ちゃん、好きだよ、大好き」

 薄いTシャツをたくし上げた手が、焦らすことも知らず乳首を抓る。ゾクリと肌を粟立たせる痛みは、期待で緩く芯を持った性器を煽った。

「馬鹿、痛えよ」
「でも大ちゃん、気持ちよさそうな顔してるよ。ここ、苦しそう……」

 あばら、脇腹、腰骨にヘソ。色事など知らなそうな指先がそれらを辿り、ジーンズのベルトを外す。下着ごとずらされると、耐え性のない屹立が腹を打った。
 諒太はあからさまに唾をのみ、眼下の勃起を注視している。

「勃ってる……触りたい、触っていい? あ、いや、でも舐めてみたい。俺のと一緒に擦ってもみたい……どうしよう」

 性的好奇心に支配されているのか、諒太はオロオロと迷っている。
 遠慮がちに抱きしめるくせに問答無用で大雅を翻弄する、元の時間軸の諒太とは正反対だ。単純に経験回数の差だろうが、新鮮な狼狽が可愛くて男の手を引いてやりたくなった。

「どれでもいいけど、とりあえず……こっち」
「ぅ、わ……!」

 諒太の肩を押して起き上がり、軽く突き飛ばす。突然押し倒された諒太は唖然としていて、抵抗なく下着を膝まで下ろすことができた。露わになった性器は何もしていないにもかかわらず血管を浮かばせていて、わかりやすい反応に笑みが零れる。

「こんなにしといて、触りたいだの舐めたいだの、よく悩めたな」
「だ、って……っ、俺、大ちゃんとエッチするときは何しよう、どうしようって今までずっと妄想してきたから……!」
「へえ……じゃあお前の妄想ん中の俺が、しなさそうなことやってやるよ」
「どんな……?」

 顔を真っ赤にしてウブさを見せつける諒太は、それでも大雅からギラついた目を逸らさない。
 段々と優位な立場に男心をくすぐられた大雅は、張り詰めた先端で男の裏筋を擦ってやり、諒太の口に自分の指を含ませた。

「舐めて濡らして」
「ん……」

 従順に指へ絡む舌の感触が気持ちよく、僅かに息が乱れる。褒美のつもりでまた腰を揺らすと、陰茎を擦られる快感で諒太が眉を寄せた。顔を背けて口内から指を抜き、上擦った声で笑う。

「ね……これ、俺のお尻に入っちゃうやつ?」
「いいや?」

 ぬるついた指を自らの尻に伸ばす大雅は、どこか安堵している諒太に思わず笑ってしまう。彼を抱いてみたい欲求が全くないとは言わないが、男の腕で内側から高められることを知っている分、我慢がきかない。
 多少の不安を抱きつつ後孔へ挿し入れると、想像より容易く一本含ませることができた。

「ふ……っ」
「大ちゃんエロい……でも待って、それは俺がしたい」

 視覚が捉えた映像だけで息を荒げる諒太は、両手を臀部へ伸ばしてくる。
 しかし大雅はすぐさまその手を掴み、触れ合う二人分の屹立へ誘導した。

「いいから……お前はこっち」
「でも」
「慣れてる奴がやったほうが早いだろ」

 言うほど後ろの自慰には慣れていないが、未経験者よりは一応マシだろう。大雅は目を閉じて何度も息を詰め、慎重に二本目を挿入した。いつも諒太がしてくれていたように解したいが、思うようにいかず歯噛みする。


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