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妖精に恋をしたサッカー少年のおはなし*3


「豪炎寺く〜ん、大丈夫?」
「っ!……飛べるのか、お前」

「うん。体動かすの好きだからむやみに羽根は使わないけどね……」
人間は木の上に行くのもこんなふうによじ登らなきゃいけないなんて大変だなあ。
まだ下の方にいる彼を覗きこんで僕は首を傾げる。

「……上まで連れてってあげようか?」
「大丈夫、こんなの余裕だ」

言葉の通り、豪炎寺くんはかなり疎らな足場を着々と登ってハンモックまでたどり着く。
でも、ちょっと意地を張ってるみたいな態度が……なんだか可愛い。


幅のあるハンモックは少年ほどの背格好の2人が寝そべるには十分な場所だった。

「ほらこれ、横に使えば広々と寝れるよ」
「いや、俺はここでいい」

「え〜なんでさ?夕焼け空がよーく見えるのに……あ、ホラ、綺麗な雲」

豪炎寺くんは座ったままの姿勢で真上に広がる空を見上げた。

「も〜……おいでったら、こっち」
僕は彼の背中のシャツを引っ張って無理やり仰向けに倒す。

「っ……おい!何するんだ」
「ふふ、あれ見てよ……」

うろこ雲。空の上で白い竜が昼寝してるみたいだね……

引っ張って倒したことを詰る矛先を、僕は空へと転嫁する。

「昼寝?それは随分と寝坊な竜だな」

あ……笑った。
僕は口の端にキリッと笑顔を浮かべた豪炎寺くんの端正な顔立ちをじっと見つめた。

「君の髪の色……夕日に当たって凄くキレイ」

「っ………」
ピシッと立った前髪に指を伸ばすと、プイッと横を向かれてしまった。

そして顔をそむけたまま―――不意の問いかけ。

「羽根で飛ぶのは楽しいか?」と。
「うん、もちろんさ。便利だしすごく楽しいよ」と僕は答える。

すると、さらに不思議な問いかけが続く。

「お前も……人と結婚したら、人間になるのか?」
「え?ううん、僕は……人間の女の子と結婚しても妖精のままだよ」

人間の男の精を注がれ続けると、妖精は人間になっていく。
でも、妖精の精は人を……妖精に変えることはないから。

「違う。お前がもしも人間の男と結婚したら…だ」
「えっ」

何で……?
急に胸がドキドキと高鳴る。

「そりゃ……なるだろうけど…」
僕、男だし、それは考えたことも…なかった。と、少し上擦った声で率直に返すと

「………そうか」
と豪炎寺くんは頷いた。
何故か少し寂しげな表情で。

離れた街の教会の鐘の音がかすかに聞こえてくる――。

豪炎寺くんはそれを聞いて「5時だ…」とつぶやき、
僕は「……帰る時間だね」とぽつりと答えた。

真上の空から森全体を照らす夕焼けの薄茜色の光が……僕の頬の火照りを幸いにも隠してくれていた。




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