妖精に恋をしたサッカー少年のおはなし*1
吹雪と初めて会ったのは、母がいなくなって初めてのクリスマスの朝だった。
母はいなくなってしまったけど、サンタは来るものなのだ……。
ベッドにぶら下げるために与えられていたニットのくつ下を、翌朝見て思った。
中を覗かなくても何が入っているのかわかった。
なぜならそのくつ下は中のプレゼントの形にキレイに変形し伸びていて。
その形は俺の足にいかにもなじみそうな大きさの
『球形』をしていたから――。
俺はさっさと服を着替えて食事を済ませ、家庭教師と学校のおさらいを終えた。
そして昼ごはんまでの自由時間をなるたけ長く作り、新しいボールを抱えて階下に駆け降りる―――
「おやまあ、修也さんお出かけですか?」
新しいお人形で遊んでいる小さな妹の髪をふたつに結わえながら女中さんが訊ねる。
「はい。森でサッカーしてきます」
「そうですか。お気をつけていってらっしゃいませ」
「いってきます」
背中に掛けられた声が弾むように心に響いた。
「新しいボール、良かったですね」
このボールも1年もしないうちにきっとボロボロになるだろう。
それほど毎日何度も森に来て一人でサッカーを続けていた。
新しいボールは伸びがよくて何だかコントロールが良くなった気になる。
胡桃の木に何度も当てる練習――強く蹴れば、強く跳ね返る。リバウンドの球筋を予測して何度もキックを続ける。
ただ…………さすがに蹴る、止めるという繰り返しだけではたまに、疲れとともに飽きがくる。
昼食を済ませ午後もそれを繰り返しながら、ふと思う。
年に一度決まって家に起こるサプライズがあるならば……サンタの贈り物でなくて母さんに会えたらいいのに。
ほんの一瞬、何となくそう思っただけだ。
汗を拭いてもう一度トスを上げれば忘れる。ふとした思いが消えかけようとした………その時だった。
「君、すごく上手いね。でもそれじゃ試合に勝てないよ」
何故だろう。
その声を聴いた瞬間、心が久しぶりに柔らかい温もりにふわりと包まれた気がして。
振り返ると、プラチナ色の髪と抜けるような白い肌の……自分より少し年上らしき少年が、とろけるような微笑を浮かべて立っていた。
「僕を…………抜いてごらんよ」
灰碧の瞳に見つめられて息を呑み、一瞬目を細める。
子供心に美しさに感嘆し目が眩んだのかも知れない。
「ふふ……来ないなら僕から行くよ」
「っ……!」
音もなく軽やかにボールを奪って後方へと駆け抜けた風のような少年の華奢な背を振り返る。
ドクン―――と胸が高鳴った。
弾むような熱を心の奥で噛みしめながら、俺は踵を返して全力で軽やかな後ろ姿を追いかけた。
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