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妖精に恋をしたサッカー少年のおはなし*2


吹雪がサッカーの相手をしてくれるようになってからというもの、俺は一層熱心に森へ通いつめた。

午前のうちに午後の勉強を済ます勢いで……遅くとも2時までには片付けて屋敷を飛び出して。日の入りギリギリに全速力で駆け戻る日が続いた。

血が騒ぐ……というのだろうか。
とにかく無我夢中になるほど楽しかった。

そうして何度か季節は巡り、12になっても吹雪を抜くことは出来ないのが悔しい。

速さこそ一歩足りないが、力や技は身につけた筈なのに……接近すると、あと一歩のところで逃がしてしまう。

背丈も同じくらいになり、体重なんて俺の方がずっとある。
一度くらいは抜けたっていい筈なのに。

「……変だな」
「何が?」

「他の相手ならあのまま抜けるのに……吹雪の懐に入ると……」
「…入ると…何?」

「いや……」

「なあに?」
教えてよ。と、湧き水を汲んでいた吹雪が上目遣いでこっちを見ながら詰め寄る。

「っ……何か、集中力が途切れるんだ」

途切れるというか、別の所へ向いてしまう。吹雪の息づかいや甘い香りや…ぶつかったときのしなやかな弾力に。

「君も……飲む?」

口の端を濡らしていた水を細い指で拭う仕草に目を奪われていた俺は、ハッとして目を見開いたままコクりと頷く。


冷たい湧き水で喉を潤すと同時にバシャバシャと顔を洗った。

すると顔を拭っている俺の頭上から「お〜い」と声がした。
見上げると
「おいで、夕焼け空が綺麗だよ」と、吹雪が少し向こうのハンモックの上で呼んでいる。

俺は呼ばれるままに、その木に上り始めた。