7
「吹雪、入るぞ」
「やだっ///出てって!」
顔面めがけて飛んできたクマを、俺は片手でキャッチする。
夏休みに入ったばかりの休日に、ショッピングモールでねだられて買ったヤツだ。
「ふ~ん、そうか。邪魔したな」
「わあっ!待ってよ」
部屋を出ようとした俺を、吹雪は必死で追ってくる。
「フッ…どうした?やはり恋しいのか?」
「違うよ!クマ返してっ///」
自分で放り投げたクセに、必死で追いすがってくる仕草が可愛くて思わずぬいぐるみと一緒に吹雪を抱き上げた。
「は///離してよ……っ」
「お前、本当に軽いな……」
抵抗空しく、吹雪はクマと共に俺のベッドに拐われる結果となったのだが。
「む~///………」
「………で、お前が不機嫌な理由をもう一度教えてくれないか」
キスには応えるくせに、目を合わせてくれない吹雪に 俺はため息混じりに訊ねる。
「…………」
「……おい………返事しないなら………」
「ひゃっ!やめてよっ///」
チュ……………と吹雪の膨れた頬を優しく吸うと、
詰るように涙目でこっちを睨んでくる。
「ばかぁ///」
「………...?」
「もうキライ///」
言葉とは裏腹にぎゅっと俺の胸にしがみついているのが可愛くて、だが
「…………イシド先生に会いたい」とぽつりと言われて胸が痛んだ。
ベッドに仰向けに寝そべる俺の胸を枕にするように吹雪はしばらく黙って横たわっている。
「ねぇ………………」
「…………?」
「豪炎寺さんもドキドキ………してる…?」
俺はクスッと笑って「ああ」と答えて、吹雪の身体をすっぽりと包みこむように抱きしめる。
「ドキドキしてる。……会いたくて仕方なかったヤツに2日ぶりに会えたんだからな」
と囁くように伝えると、吹雪は真顔になり「あっ///それ………僕もおなじだよ」と俺の顔を覗きこんでくる。
「フッ………これで分かったろ。サッカーも教師も関係ない、俺も生身の男だと………」
「…………あ///」
怖がってないことを確かめながら、吹雪の上に覆い被さるように抱き直すと、俺の下半身が身体に当たり、その異物感に吹雪が赤くなって息を呑む。
「参ったな。今さら………隠しようもない」
「///あの…」
「俺にこんなふうに欲情されるのは、嫌か?」
「//////」
吹雪は何も答えずに、ただ俺の胸に顔を隠すように埋めている。
「……ちよっと……いい?」
ふと吹雪は思い立ったように俺の腕をすり抜けて
クマを抱いて自分の部屋に立ち去っていった。
ーーーアイツにはまだ荷が重いのかも知れないな。
恋とか、ましてや愛なんて。
ドアの向こうに消える華奢な背中を見つめながら、俺は短いため息をついてドアから背を向けてベッドに横になる。
思えば一ーー
俺は今までどうやって恋をして、相手に想いを伝えてきたのだろうか。全く思い出せない程吹雪に夢中だというのか。
初恋みたいな切なさともどかしさを感じながら
俺は目を閉じる。
しばらくすると、柔かい声が俺を呼んだ。
「先生…………」
「…………!!」
ガバッと起き上がって振り返ると、
クマを部屋に置いてきたのか、吹雪がひとりでドアの前に立っていた。
「あの………さ、一緒に寝てもいい?」
「あ///ああ。勿論だ」
来い…………と呼ばれるやいなや、吹雪は顔を輝かせて駆け寄ってきて俺の懐に滑り込む。
そして、ほくほくした表情で
「合宿………頑張ったご褒美に///1日だけこうして欲しかったんだよね///」とひとりごちている。
「………ご褒美…か」
俺も思わず頬が緩んだ。光栄だな、と。
「…え?」
「いや、よく頑張ったな。ゆっくり休め」
吹雪を腕枕しながら俺は耳元で囁いた。
「愛してる」と。
吹雪はもう夢の中だろう。
随分と年上の男に想いを寄せられて
怖がられていないだけでも、良かった。
今はそれだけで十分だと思っていた。
大切に育んでいきたいから…………。
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