イシド先生と吹雪くん | ナノ
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8

二学期になるまでに変わったこと。

それは、僕がイシド先生の本当の名前を知ったこと。

彼より早く起きて、朝食の支度をするようになったこと。

そして、目覚めるときはいつも……
彼の腕の中にいること。



イシド先生が支度を終えて部屋から出てくる。

「さあ、行くか」

「は///はいっ」


わわっ…スーツ姿が新鮮で、改めて…カッコいい。

そう思って見惚れていると、彼もこっちを見てぼんやりしている。

「///どうしたの?」

「いや…久しぶりの制服姿を見て…改めてお前が雷門高の生徒なんだと……」


頬を赤らめてるのは、僕を好きでいてくれるから?

だけど、自制の言葉にも聞こえて…僕は小さくため息をついた。


豪炎寺さんがくれる告白の返事を、僕はまだキチンと返していない。

豪炎寺さんも…答えを求めようとせず、変わらず僕を大切に扱うばかりで

二人は頻繁にキスを求めあう以上の関係には
進むこともなく……
学校が始まると同時に僕の意識も "豪炎寺さん" というより "イシド先生"に戻った。



「別々に…登校するか?」

「何で?公認の同居なんだから…いいでしょ?」

「…………あぁ、まあ…な」


車に乗り込んで、すぐにキスをねだるように目を閉じれば、優しく唇で触れてくれる。


………呼び名は前のままでも、この関係は後戻りしたくなかった。





授業も、部活も、何事もなかったように始まり進んでいく。

教壇に立ち、女子たちのうっとりした眼差しを一身に受けながら淡々と授業を進めてるイシド先生。


こうして普段通りの彼の姿を眺めていると、
今までの豪炎寺さんとのやり取りが
僕の妄想の産物みたいにも思えて……


………証がほしい。

という願いが心のおくを揺さぶるようになった。


傷ついてもいいから、
先生と僕の間にもっと確かな証が欲しい。

それをくれるなら、僕でよければ…全部先生に…あげるから。






「お帰りなさぁい」

「ただいま」

今日は雨で部活が中止だから、早く帰ってミートソーススパゲティ作りに挑戦してみたんだ。

「夕食できてるよ」

「そうか、楽しみだな」

「野菜を細かく刻んでじっくり煮詰めて挽き肉とトマトソースでね…」

「フッ…美味そうだ」


クローゼットまでついていって僕が話を続けていると、先生は話に耳を傾けながらジャケットを脱いで掛けて

それから///シャツを脱ぎ褐色の上半身が露わになり……僕はその゙男の色香゙に思わず目をそらす。

あのセクシーな肌と、自分の肌を擦り合わせるなんてこと想像するだけで……
ああっ、も、ムリだよっ///



向かいあって食卓につくと、一口食べた先生が「料理、上達したな」と漆黒の眸を細めて褒めてくれた。


「ふふ///ありがと………」

それは、イシド先生の口に入ると思って作るからだよ。

だから心がこもるし……楽しいんだ。




「自立、したいと言っていたな」

ごちそうさまでした――と僕が手を合わせるのを待って彼が訊ねる。

「あ………はい…」

正直施設を出た時の決意とか心境を、僕は忘れかけていた。
それほど先生の存在は大きくて……



「10月から、寮の個室が空くらしいが、どうする?」

「!!」


まさかの質問に僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。


「………あ…の、それって…」

「お前はどうしたい?」

「先生……」

「先生じゃない」


――ドキンとした。


「俺…豪炎寺修也とこのまま暮らしたいかどうかを訊いている」

「…………あの……っ……待って…」


食卓の席を立つ彼を追うように立ち上がると、待っていたかのように僕は二の腕を掴んで引き寄せられ唇を奪われた。

同じソースの味を反芻するキスは―――いつもと違うキスだった。


「………ふ…っ……ぁは…っ……」

少し乱暴に舌が割り込んできて僕の口内を隅々まで撫でて……チュパ…と離れる。



「ーーー聞いて、いいか?」


肩で大きく息をついている僕を労るように上肢を撫でながら、豪炎寺さんは尋ねた。「お前が個室を希望して、年度途中でここに来たのは何故だ?」と。



「それは……人にどう見られるかを気に病みながら暮らすのが嫌になったからさ…」

僕はぽつり、ぽつりと打ち明ける。

男子棟で寝泊まりして育って…皆と同じと思ってたのに、中学に上がってから何だかおかしくなっていった。

皆背が伸び男らしくなって、さらには僕のこと変な目で見るようになる友達も増えて…

お風呂で体をじろじろ見られたり、好きだと言われて触られたり……終いには寮母さん夫妻の喧嘩の種になったことを、僕は目に涙をためながらも淡々と話した。



「随分と辛い思いを…したんだな」


豪炎寺さんはそう言って、僕を抱きしめてくれた。


「そんなに苦い経験をしたのに、何故見知らぬ男の一人住まいに居候する気になったんだ」

「…………………」


僕はぎゅうっ…と豪炎寺さんの体に腕を回して密着するように身体を合わせた。


服を通しても、きっと僕の胸の高なりは伝わっているだろう。


「鍵つきの個室を与えてくれるって聞いたのと……円堂監督がイシドシュウジさんのこと『絶対信用できるやつだ』って」

命賭けたっていい……っていうからさ。





僕は彼にしがみついたまま呟く。
円堂監督の言葉は正しかった。

「本当に……そうだったけど…」


でも―――――


その真面目さが、今の僕には少しもどかしい。



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