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信じられない……っ
胸がドキドキしっぱなしだ。
だって僕の先生が……
僕を引き取り、毎日大事にしてくれて………
キスをくれて………
好きだと言ってくれたあの人が…………
まさか伝説の「炎のストライカー・豪炎寺修也」だなんて知ってしまったんだから。
サッカーを知ってる人で豪炎寺選手を知らない人はいないだろう。
僕からしたら、憧れる…なんておこがましい位の人だ。
何だろう………ときめいたけど
寂しさの方が多かったんだと思う。
だって合宿中ずっとイシド先生のこと
考えてた。
逢いたくて…
逢いたくて仕方なくて…
やっと逢えるって、胸を膨らませて帰ってきたのに………
今になって思えば、顔立ちだって豪炎寺さんそのものだ。まさに髪を下ろしているだけ。
でもスポーツカーとか、マンションも…そりゃあ少しは裕福そうな香りもしたけれど、飛び抜けて派手なわけでもない。
むしろ無駄遣いもしないし、自炊して…掃除とか他の家事もそつなくて、まさか世界の豪炎寺さんがこんな常識的な人だなんて、想像つくはずないじゃないか。
だけど
ボールを蹴り始めた時の彼は別人だった。
常人には無い風格と威圧感―――見るものを魅了するシュート。こんなに軽く試してるだけなのに。
ムリだ。
と、感動と同時に思った。
背伸びして…やっと手が届くかどうかって人が
姿が見えなくなるほど、一気に遠くなってしまった。
「もう……いらないのか」
「ハイ……ごちそうさまでした」
「フッ………しおらしいな。どうだったんだ、合宿は…」
「まあ、それなりに…有意義でした」
「………どうしたんだ?やけにかしこまって…」
ぶわっ…と寂しさとか色んな感情が涙と一緒に込み上げてきた。
「なんでもないっ///お風呂……借りますっ」
僕はイシド……いや豪炎寺さんを避けるようにしてバスルームに駆け込んだ。
哀しい。
悔しい。
豪炎寺さんのこと…ちょっぴり恨めしい。
何でこんな僕なんかを……引き取ってくれたの?
思わせ振りな態度まで取って……雲の上の人のくせに!
………期待、しちゃったじゃないか。
っ…………てか…期待……………………してた?
バスタブにはちゃぁんと僕の好きな湯加減で
お湯がはってある。
笑っちゃうよ、豪炎寺さんがいれてくれたお風呂に入るなんて…どんなご身分なんだよ。
気分が晴れないまま俯いてバスルームを出ると、
豪炎寺さんが立っていた。
「吹雪…………」
「……すみません」
「驚かせてしまったようだな」
「いえ………僕こそ……気づかなくて…失礼しました」
「っ……何言ってる?」
ぐっ――――と抱き寄せられて緊張の余り
心臓を鷲掴みされたように全身と心が竦む。
「言ってるだろう?………必ずしも、先生とか……元サッカー選手とか………そんな肩書を背負って暮らしてる訳じゃない」
「で…もっ///」
こんな、こんな大事なこと黙ってるなんて狡い!
すっかり同居して寛いでしまって……
恋心まで…と責め立てようとする僕は、息を呑んで黙るしかない。
だって、豪炎寺さんの顔が……あまりに近づくから。
息がかかるほど…近くなり
悲鳴をあげそうなほど胸が締め付けられた。
「名前なんてどうでもいい」
ダメ……苦しいんだ。
胸がいたいよ。
「今は……お前に恋するひとりの男だ、それでいいだろう?」
「…………そんな……」
彼の手が、僕の顎に伸びてきて少し持ち上げられる。
まさかっ………そんな………
「好きなんだ」
………………うそ………………
でも、逆らえるはずもなく
夢見心地のまま、唇が重なった。
熱いよ………
身体じゅう溶かされてしまいそう。
躊躇いがちに少しずつ角度を変えて何度か僕を確かめるように触れてくる豪炎寺さんの唇。
好きなんだ……………だなんて
今は受け止められないよ。
でも。
凄く戸惑いながらも…………
キスに逆らえなかったのは
有名人の豪炎寺さんに圧倒されたからじゃない。
今は色んな思いに押し潰されて
とても口には出せないけど
彼が誰であろうと、
僕は……………彼のこと好きになってしまってたからだった。
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