マッチ売りの少年 | ナノ
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「それで、黒幕は……誰だったの?」

「いや、実は…………」

あれは研崎の単独の犯行だったんだ。と俺が言うと吹雪は「ヘぇ」と意外そうに目を丸くした。


いつもは寮の食堂でミーティングもかねて摂る夕食を「自室での研究がたてこんでいるから」と断り、吹雪は部屋での夜食を2つ注文してくれていた。



「あのさ、これも……苦手だろうけど飲んでみなよ」

部屋の小さなテーブルでその軽食を摂った後、吹雪から手渡された温かい飲み物からはむせるような甘い香りがする。

「甘酒…か?」

「うん。そんなようなもの。ヒトの体温を冷えからブロックして、必要以上に下げない酵素が含まれてるんだ」

俺は、少し舐めてみて顔をしかめた。
甘すぎる飲み物は正直得意ではない。

身の上話を続けながら、俺は目を閉じ甘酒を飲む決意を固めていく。


「研崎はな………ああ見えて千宮路よりうわ手だったんだ」

祝席の陰で吹雪を葬り去り、捜査を仕切って、二枚舌を使ってコトを収めようとしたのだ。

毒を盛った使用人に金を掴ませて解雇し、両家には『俺が吹雪に入れ込んでいることをよく思わない相手方』の犯行と話し、示談でコトを納めるのは簡単だ。
アウトローが一人消えても誰も詮索はしないのが現実だから。

最愛の人に危害を加えられた怨恨を燻らせた俺が周囲から孤立していくのであれば、その時は俺を切り、自分の立てたエースとすげ替えようとまでしていたようだ。
自ら率いるサッカーチームまで用意して―――。


「ダークエンペラーズ?」

「ああ。エイリア部隊と起源は同じだが、その力を違法に使う闇のサッカー軍団だ。もし俺を追放することになれば、研崎が指揮するダークエンペラーズが政府軍に合併…」
「でもっ……!」

吹雪が俺を遮る勢いで反論する。
「君は孤立なんてしなかった。吉良家と急接近して実のお父さんまで交えて仲良く共同研究とか、それに君はエイリア部隊の育成にも熱心で……」

「…………?」

吹雪の口調が責めるように刺々しく、しまいには涙目になっているのに俺は驚く。

「もう、いいんだけどさ」

テーブルの向かい側に座る吹雪は紅潮気味の頬を膨らませてぷいっと横を向く。
だが、またすぐに不安げに振り返った。

「あの……正直に教えて」

「…………?」

俺は手持ち無沙汰でコップをロに近づけながら頷く。

「彼女と僕、どっちのセックスが良い?」
「っ……ゲホッ、ゴホ……」

吹雪からの意外すぎるアタックに飲みかけた甘酒を思わず噴きそうになった。

「っ……待て。それは比べられない」
「わかるよ」

吹雪はテーブルから、顔を逸らしたまま立ち上がる。

「わかる。だって女のひとの体だもん、ぼくなんかとは全然違って温くて柔らかくて…」
「吹雪、違うんだ」

俺はコップをテーブルに置いて立ち上がり、吹雪を後ろから抱き竦めた。

「違わないよ。だから悔しいんだ……」
「……悔しい?」

吹雪は俺の腕を抜け出して向き直り、頬を伝う涙に構わず俺を見上げてくる。

「ねぇ、僕が………君の一番でいるにはどうしたらいい?」

俺は一瞬、息を呑んで……それから“本音" を口にする。

「今の………ままでいい」

そして、夢中で吹雪に口づけた。


ヤキモチを妬いてくれるのか?…………だとしたら嬉しくて、愛しくて……胸が痛い。

「……んっ……やめてよっ気休めなんて」

危うく揺れる拗ねた声が可愛い。

「一番なんて必要ないだろう?」

「え?」

「順番なんて無いんだ。俺にはお前しかいない。お前としか関係を持ってないんだから」

「………え。でも……婚約は……」
俺が降らせる熱いキスの合間を縫って吹雪は不思議そうに訊く。


「即日、破談になった」


俺の本心が知られてしまったからな。

とにかくsp-04でお前の体調を管理してたとは研崎にも思いもよらない誤算だったろう。
祝席の陰で息絶えるはずのお前の体の異変は、sp-04のアラームになって俺の携帯にすぐに届いた。

その後の俺の必死の対応の一部始終を吉良父娘は目の当たりにしている。

だから―――
現場検証が終わった帰り際、吉良会長からキッパリと言われたんだ。

「命がけで愛しあう相手がいる男の元へ、大事な娘はやれない」と。


「…………そんな………」

吹雪は驚いていたがその口元はほころんでいる。
その表情を見て、俺の頬も緩んだ。


「それからも毎晩……俺はお前のことばかり考えてた」

もう、ひとつ屋根の下には居ないと分かっていながら…………
ドアがノックされるのをどこかでずっと待っていたんだ。

柔らかくて、甘い香りがして……
可愛い声で啼いて……
繋がっている時の温もりも、反応も俺にとって、かけがえのないものだったから…………

溢れる想いをまたキスに変えて吹雪に降らせる。


「…………豪炎寺…くん」

怯えるように戸惑いながら応えるキスは、まだ奴隷の“心得" が染み付いているからなのか?

今までそれが邪魔してなかなか触ることができなかった吹雪の身体に触れたくて、キスをしながら上着の下に滑り込ませた手で胸のさきを探り当てて撫でる。

「…っはぁ………や……だっ」

柔らかかったそこはぴくっと素直な反応を示し、指の腹に小さく尖った感触を伝えてくるから堪らない。

「吹雪の………身体……見たい…」

「だ……め……だってばっ」

渾身のカで俺を振り払い、するりと腕を抜け出す吹雪。

「僕はねっ、明日4時に起きて里山にフィールドワークに出かけるんだから」

眉をひそめて俺を睨みながら服の乱れを直す姿さえ可愛い。

「もう……寝なくちゃ。君もお風呂使って」

「一緒に、か?」と真顔で訊くと
「今日はダメ」とぴしゃりと断られた。



「これ、NOAの研究員の服だけど…………」
風呂から上がって体を拭いていると、吹雪のとは色やサイズ違いの制服を渡される。

「は、早く着てよ」と急かされて上着を着ようとすると、今度は「あ、待って」と止められる。


疚しい期待に胸を踊らせるが、そうじゃなくて。


吹雪は俺がここへ来るまでの険しい道のりで負った外傷を念入りに調べて「消毒するね」と蒸留酒を口に含む。

そこら中にくれるキスが心地よくて思わず目を閉じた。

「フッ…………」

「どうしたの?」

「俺は…………幸せなしもべだな」

吹雪は、ふと動きを止めた。

しばらく考えてから「僕の…………ご主人様も優しかったからさ」と優しい声で答えてまたせっせと手当てを再開した。



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