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恐る恐る部屋をノックする。
「……誰だ」と、彼の声。
「吹雪です」と答えると一瞬の間のあと「入れ」と許可の返事が返る。
ノブを回し重い扉を押すと、もう部屋の灯りは落としてあって。
ベッドの辺りで振り向いたような気配が動いた。
「……おつとめに来ました」
「ああ。始めてくれ」
僕はゴクリと唾を呑み、予習してきた通りに部屋の隅の水場で持ってきたヤカンに水を入れ、ベルガモットのオイルを垂らしてとろ火にかける。
室内に温かくしっとりした香りが蒸気とともに広がっていき……
僕は深呼吸をひとつするとベッドへと歩み寄り、腰かけている彼の前に向かい合って立った。
……頬が熱い。それに胸がドキドキする。
薄闇の中 じっと見つめ合いながら僕は、ハラリとガウンを床に落として全裸になった。
「始めるね……」
ふわりと抱きつくように豪炎寺くんの体に手を回して、彼の着衣を襟元からするりと開く。
鍛えた上半身を手のひらで撫で下ろしそのまま腰紐を探して、辿り着いた震える指で結び目をほどきながら……ハッと息を呑んだ。
露わになった彼のソレは予備知識とは違ってて……
僕が施しを始めてないのにもう隆起してる。
そんなのを鼻先に突きつけられてる状態で……でも、戸惑ってる暇はない。
チュプ……と先端を口に含むと隆起の角度がぐっと増して、熱い肌の温度と分泌液の苦みが胸にまで沁みた。
「………チュ……はむ……ふっ…………クチュ」
ロいっぱいに彼のを含んで悪戦苦闘している僕の拙い舌の動きに、反応しながら更に質感を増してくるのを、夢中でロ唇で促えて舌を這わせる。
「…くっ………」
表面をたどたどしく撫でるだけの刺激に痺れを切らしたのか「手も使え……」と呻くように指示が下る。
僕はカレの付け根を握って、チュクチュクと吸いつきながら動かしてみるとビクンと堅い反応が返る。
もどかしげな吐息とともに、ぐっと彼の手が僕の頭に置かれ、何かを求めるように髪をくしゃくしゃと乱して長い指が彷徨う。
僕の唾液と彼の分泌液が混った愛撫の音がグジュグジュと咥内から僕の脳内を掻き混ぜて、僕自身もすごくヘンなキモチになってくる。
「チュ……ぁふ………ジュプ……だ…め……」
「……くっ……煽るな」
体内が疼いて、カが入らなくなってきて……
擦く手を緩めた瞬間、
彼の両手ががしっと僕の頭を支えてズブリと喉の奥まで熱い塊が押し入ってくる。
「んん………ふぁ」
息が詰まりロを放そうとするのを、押し止めるように頭を支える彼の手。
腰を動かしながら立ち上がる彼につられて……膝立ちになっての奉仕は激しさを増す。
「クチュ………ふぁ……チュプ……まっ…て…」
無理だよね。
待ってと言われて待てないのは、一応同じ体の構造をもつ僕だってわかる気がする。
ただ歯を立てないようにするのが精一杯だった。
ジュブジュブと口内を蹂躙されながらも、その淫らな音と性的な反応がビシビシ伝わり頭の中はもうまっ白で……
しかも豪炎寺くんので塞がれたロ内は、恍惚と興奮で鼻呼吸すらままならない………
くるしい……けど……きもちい……
喉の奥を彼の先端に押さえつけられるのさえ、クセになりそうで……
快楽とも苦痛ともつかない酸欠状態にふらっと目眩して、チュパ……と口が離れた瞬間、熱い飛沫が僕の顔あたりに飛び散った。
「………大丈夫か」
すまない、と抱き起こされるのにつられて、浮遊していた意識も連れ戻される。
「だいじょ……ぶ」
そう返しつつ半ば夢心地で……僕は手の甲で顔を拭いながら立ち上がろうとしてまた座り込む。
「ごめ……なさい………僕粗相を……」
僕にかかった彼のとは別の飛沫が内腿を濡らしているのがわかって項垂れる僕。
抜いてきたはずなのに……僕としたことが………
ヤカンにかけていたコンロの火を切る音。
「……拭くぞ」
豪炎寺くんは、本当は僕が作るべきタオルを手に、白濁に濡れた僕の顔や体をキレイに拭いてくれた。
「ごめん……なさい……あの………」
「ガウンの布地がよくないな……もっと着心地良いのを誂えよう」
床に落ちていた僕のガウンを拾いあげて着せてくれた彼は「これでは風邪を引く」と心配げにひとりごちる。
「肌が……冷たいな」
「……あの……抱擁はダメ……」
" 心得 " が気になり肩を撫でる手を振り払うように僕は身を捩った。
「お前、風邪引くなよ。代理人を遣わされては困るからな」
もっともらしく“主人"の顔を作りながらも「お前しか欲しくないんだ」と一瞬だけ僕を抱きしめる君……。
「あ、僕がやります」
「いや、いい」
「だめ、貸して」
自分で体を拭おうとする豪炎寺くんから、僕は慌ててタオルを取り上げた。
そして丁寧に体を拭いてあげながら思う……好きな人のお世話をするのって、すごく楽しいって。
「おい、あまり念入りに触るな」
「っ……すみません!」
勢い余ってまた硬直するそれを、豪炎寺くんは僕に背を向けガウンを着て隠す。
「さぁ、もう部屋に戻れ」
「…………はい」
楽しい時間はあっという間だね―――。
僕はため息とともにゆっくりと頷いて、タオルを入れた洗面器とヤカンを手にしてそろそろとドアの方へ向かった。
色々と失敗ばかりだったと肩を落として……。
「……吹雪」
背中から呼ぶ声に、ドキンとして立ち止まる。
「……はい?」
「………おやすみ」
「おやすみなさい」
………心にほんのりとしあわせの種火が点った。
そして、そのぬくもりを消さないようにそっと僕は部屋を後にした。
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