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16


ガチャ、ガチャ……カシャン―――。

暗闇の中、重い錠を締める音が響く。
吹雪にとってそれは、O-hausに帰りついた安堵の音だ。

「うふふ……お家についたね」
「ああ。今日はありがとう」
甘えるように首に腕を絡ませてくる吹雪を、豪炎寺が片手で抱き止める。

「疲れただろう?」
「ん……」
吹雪は言葉を封印し、こたえは甘いボディーランゲージに変わる。
凭れかかる吹雪のキスを優しく受け止めながら、豪炎寺はもう片方の手をカウンターに伸ばした。

「……なに……取ったの?」

「いいから。いくぞ」

豪炎寺の声のどことなく弾むような余韻に、吹雪の心も高揚していた。

「足元、気をつけろ」
暗い階段に差し掛かった時、豪炎寺が体を少し傾けたかと思うと吹雪がひょいっと宙に浮く。

「わ……すごっ……」
抱えられたまま階上に辿り着いた吹雪が目を丸くする。
「君……結構力あるね」
「なめるな。このくらい普通だ」
「だって……男の僕を片手で……」
「……クックッ……お前が?確かに男だが……」

「何笑ってるの!?こんな格好してるけど……正真正銘の男だよ」

一瞬膨れた吹雪も思わずクスッと笑い声を漏らす。
見つめる豪炎寺の目線も笑むように吹雪に向けられている。

「少し飲まないか?」
「え……?」
ベッドの上に着地した吹雪は、豪炎寺が掲げた緑色のボトルを見て「いいね」と頷いた。

ベットの前の小さなテーブルの上に二つ置かれたボヘミアのグラスは、昼間蚤の市でプレゼントされたものだ。

ほのかに虹彩を帯び、レース模様が彫られた繊細な風合いのオールドグラス。
瓶から少量ずつ注いでいく深紅の液体が丸底に溜まっていく様はルビーみたいに綺麗だが、それを見て輝く吹雪の瞳の方が豪炎寺の心を魅惑する。

「酒を……飲んだことは?」
「あるよ……少しだけなら。地元の寄り合いとか……」

「これは少し独特な味だぞ。最近流行ってるパーティードリンクだが……」
「へぇ、そういうのいいね」

吹雪は好奇心旺盛にグラスを手にとった。
円堂やヒロトたちと打ち合わせたりしながら、たまに飲んだりする彼らの日常が目に浮かぶ。

ウェイトレスと音楽家の姿のまま、ベッドに並んで座って、乾杯。

一口のむと、喉が熱くなりハーブやスパイスの刺激が突き抜けていく…… 吹雪にとってはじめての味だった。

「おっと……昇天するのはまだ早いぞ」
獲物を引き寄せるように、ふらつく吹雪の体を支える豪炎寺。その野性的なアプローチにドキン……と吹雪の鼓動が跳ねた。
するすると太腿を撫で上げるようにスカートをたくしあげる手がドロワースのウエストに掛かる。
「下着まで完璧な変装だな」
脱がしかけていた手が止まり「何か……引っ掛かってる」と耳朶をくすぐるように囁く。
「これか?」
「あぁ……っ……」
臍の下を撫でながら忍び込む手の指が、濡れた屹立の先端に触れると、電流に打たれたように吹雪の足先がぴんと伸びる。

「っ………それ……だ……めっ」
腰がしなるように浮き、吹雪の昂りが豪炎寺の手にかかると、吹雪は息を呑んで快感に凍りついた。
「いい反応だな」
濡れた棹をなぞる指が滴りを辿って、後ろの蕾に触れる。
「っ………はぁ」
触れられた蕾がひくりと動いた瞬間、指が離れ―――お預けをくらったような焦燥感に吹雪は全身を震わせた。

自分じゃない手に性器を包まれるのが、こんなに刺激的だなんて……。
ぬめった音をたてて扱かれながら、声すら出なかった。
下からの刺激に混じって、はだけた胸で尖る薄桃色を舌や指で捏ねられたり、深い口づけに翻弄されたりして、まるで自分の身体が快楽を受け止めるだけの器になってしまったかのようだ―――

バサリ、とアコーディオンのベローズみたいに腰のあたりで縮んでいた衣装が床に払い落とされた。

溺れるようにもがくベッドカバーの上。
白い肢体にのめり込むように、被さる豪炎寺も終始無言で滑らかな肌を貪りつづける。

「ん……ぁっ……」

「吹雪。どこが気持ちいい?」
「そんな……わかん……ない……」

「触れて欲しいところは?」

吹雪は首を横に振りながら、弓なりになって果てる。

快感に研ぎ澄まされた肌は意思を離れて、豪炎寺の止まらない愛撫に敏感に応え、恍惚のなかを漂いつづけた。
表面をときどきちくりと差すような熱い痛みさえ、気持ちいい―――

もっと僕を奏でてほしい―――

あられもない姿をさらし、快楽を受け止めて啼き、操られるまま欲情の熱を散らす自分の身体は―――
(まるで楽器みたい)
おぼろげな意識の中で吹雪は思った。



 
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