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3

その晩に開かれた、円堂と夏未の婚約祝いパーティー。

カジュアルな立食形式で参加者は仲間うちだけだが、絶品グルメと一流スタッフを揃えたクオリティの高さは、さすが鬼道主催だけある。
始まるまでに吉良財閥の仲間たちも次々と合流して、メンバーもにぎやかさも増していた。

主役の二人や久しぶりの旧友たちとひととおり交流をすませた吹雪は、隅のテーブルに引き下がってバーベキューを少しずつ口にしながら、生欠伸をひそかに噛み殺す。
昼間、海で子どもみたいにはしゃぎすぎたせいだろうか……ぼんやりと全身がだるくて、ベッドに入ればすぐ眠れそうだった。

手の込んだ味つけのロブスターは、ほどよく香辛料がきいてとても美味しかったが、吹雪の表情はいまいち浮かなくて……
料理やドリンクの給仕役を目で追ううちに、やけに美男美女揃いなことに気づく。
話しも上手な彼らは参加者同士の交流に花を添える役目も果たしているのか。

さっきから豪炎寺の周りを美女スタッフたちが、ちやほやととりまいているのも気になった。

「吹雪さん」

振り返ると立向居が大盛りのケバブの皿をテーブルに置きながら、雛壇で仲間に囲まれて談笑する円堂と夏未に温かい眼差しを送る。

「あのお二人……お似合いですね」

「そうだね」

「羨ましいなあ……仲間同士の絆の延長に恋とか愛が生まれるなんて……」

「…………」
仲間同士の絆の延長―――という感覚に、吹雪は内心首をかしげる。
家族のいない自分にとって仲間という概念は最も親密なカテゴリー。
少なくとも今は、恋や愛がそれを越えるものだというイメージができなかったのだ。

「ああ〜っ、綱海さんまたナンパしてるし」
豪炎寺のテーブルにいる女性たちの間に割って入っていく綱海を見ながら、立向居が呆れた顔で肩をすくめる。
「明日帰国するってのに、ナニ考えてんだか……」

「まあね、でも綱海くんのああいうのは……場を盛り上げるサービス半分だろうから……」
鉄串を皿に置き、吹雪も彼らのいるテーブルに視線を移した。
綱海が飛び込んでから一気にテンションがノリノリになるテーブルで、豪炎寺の顔色は少しも変わってない。
ツンケンすることも、はしゃぐこともない。でも常に華やかな存在感が、揺るぎなくて眩しくて―――

すこし目を細めて豪炎寺を見ていた吹雪の視界に綱海が入ってくる。
彼はこっちを見ながら豪炎寺に何か耳打ちして、何か言葉を掛けたようだ。
その直後に豪炎寺の視線が真っ直ぐこっちを向いて、不意に吹雪の目線と合わさる。

ドキン―――!!

心臓が跳ね上がり、頬が熱くなった吹雪は思わず顔をそらした。


「俺、ちょっとフルーツ取ってきますね」
立向居が席を離れて、吹雪が一人になる。
向こうのテーブルから綱海が離れ、豪炎寺が取り巻きの輪を抜け出したのが視線の端に映った。

次どこへいくのかアイコンタクトをとったわけではないけれど……豪炎寺と吹雪は、たまたまバーカウンターの前に並んで立っている。

豪炎寺の装いは華やかなブラックスーツ。対する吹雪は綺麗なブルー。こういういでたちで並ぶのは新鮮で互いに何だか照れくさい。

「あ……今日はお疲れ様」

「ああ、そっちこそ」

「海の中、すごく綺麗だった……あんなの初めてみたよ」

「それはよかった」

豪炎寺は注文した飲み物をカウンターで受け取ると冷静に答えた。

「あ、僕もこれと同じものを…」
「いや、コイツにはアルコール抜きの甘口で」
吹雪のオーダーに、流暢な英語で付け加える豪炎寺。

「……なにそれ」

「お前、誕生日まだだろう? 」

「そうだけど……なんか僕のこと必要以上に子ども扱いしてない? 」

まさか豪炎寺くんが僕の誕生日を知ってるなんて―――嬉しさに似た驚きが、つい顔の輝きに表れてしまって、睨みつけてるつもりなのに口の端が緩んで、ヘンな顔になっているにちがいない。

「こっちも少し舐めてみるか? 」
「うん」
吹雪は豪炎寺のグラスを受け取り僅かに傾けて……細い舌でちろりと舐める。

「からっ……!」

舌先を刺すドライジンに吹雪が顔をしかめたのは予想どおりだ。
でもこうしたやりとりの間にも胸が熱くなるのは想定外で……平静を保つのに苦労する。

「わかりやすい反応だな」
アレンジのきいた甘口を口直しのように流し込む吹雪に、豪炎寺は優しく微笑む。

「どうせ僕は子どもだよ。君とくらべればね」
吹雪は膨れてバーカウンターを離れる。
「そうは言ってない」
豪炎寺は吹雪歩調を合わせながら、肩で息をつく。

「それに……子ども扱いはお互い様だろう? 」
「え? いつ僕が…」
「昼間もだ。俺の気持ちを手のひらで転がして……ああいうことはいつも、お前の方が何枚もうわ手だ」
「っ……あれは……」
戸惑いに潤んで揺れる灰碧の瞳。
見上げられてまた突き上げる情動に抗うように、豪炎寺はさりげなく視線をはずす。

「ファンサービスも大事なのはわかるが……翻弄される俺の身にもなってくれ」

「……ほん……ろう? 」

“お〜い、豪炎寺ぃ”と呼ばれてメインテーブルに振り返り、離れていく背中を、目を丸くして見つめる吹雪。

翻弄……って何のこと?
てか君を、僕が翻弄した……ってこと?

ちょっと待ってよ。
富永アナに協力を求められ、インタビュー中のアイスブレイクを手伝ったのは確かだけれど、翻弄なんてした覚えはない。

むしろいつも僕を翻弄してるのは、君のほうじゃないか……!

吹雪は混乱する頭を冷やそうと、手にしていたグラスをぐいっと一気に空けた。



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