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 2--Seitei side

目を開けると、すぐ前のテーブルで1人の少年が大きな分厚い本とにらめっこしている姿を視界が捉える。

その肌の色は身につけている白恋中ジャージよりもさらに透明感のある抜けるような白……そしてふと顔を上げこっちを見た灰碧の目。
それを見て俺はさっきまでの出来事を一気に思い出したのだった。


悪い夢ならよかったのだが―――どうやらこれは現実のようだ。



「あ、気がついちゃったんだ」

「お前、何の真似だ……!?」
立ち上がろうとして、自分の身体が椅子に拘束されていることに気づく。

聖帝を装う口調を忘れているのは、相手が人間ではないというあり得ない非現実感のせいだ。

「お前は……狼だろう?」

ハイヤーの中で狼に襲いかかられた俺は、逃げ延びるつもりが催眠術のようなものにやられて意識が遠のいた……その最後に脳裏に焼き付いたのは、雪のような白とこの灰碧の目の色に間違いない。

「とにかく、これを外してくれないか」
背凭れに後ろ手に固定されている手を動かすとガチャガチャと冷たい金属音が鳴る。

「ダメだよ暴れたら。念のため手錠かけておいてよかった」

思えば、その鼻にかかった声は風邪引きを装ったあの偽運転手の声だ。

「そうさ。僕が君を捕まえてここに連れてきた……狼の"吹雪"」
愛らしい顔立ちをした少年……いや狼の吹雪は、肩をすくめてアッサリと言い放った。
「君を食べるためにね」と。

「………はあ?」
これも人間を惑わすためなの可愛さなのだろうか。吹雪の容貌に見とれながら、言われた言葉をゆっくり噛み締める。

俺を食べるだと―――?そんなことコイツ一人では無理じゃないのか。いや、もしかして……
「ここはどこなんだ?」
「僕の巣穴だけど」

巣穴だとすると、まずいな。
群れで棲む狼に寄ってたかられては餌食になりかねない。だが、それにしては辺りは静かだ。

「他に仲間はいないのか?」
「仲間?いないよ」
少年は本から目を離し、首を横に振った。
「僕は訳あって天涯孤独なんだ」そう言いかけてから、不意に眉をひそめてこっちを睨んでくる。
「あん……もう集中できない。ちょっと黙ってくれるかな?」

これも男の悲しい性なのか。命の危険に晒されている(かもしれない)というのに俺は思わず頬を緩めて黙る。

「静かにしててね。遺言でも考えておいたらいいから」
「いや……それは困るんだが」

「だーめ。もう、諦めなよ。君は僕に食べられる運命なんだから」

本人はいかにも自信ありげだが、コイツだけなら襲いかかられた時に倒せばなんとか逃れる道はありそうだ。
喉元を守って、あとは捕まった時と同じような催眠術を避けるにはどうすれば………


攻略法を考えながら吹雪を見やると、何やら難しい顔をしてブツブツ言いながら本とにらめっこしている。

「で………お前は今、何をしてるんだ」

「研究さ。『人間男子の食べ方』の………もうだいたい分かったけどね!」
吹雪はパタンと重いカバーを閉じて顔を上げ、真ん丸な目をこっちへ向ける。
「僕…今までベジタリアンだったから、生き物を食べるの初めてなんだ」


待てよ―――
何の本だか知らないが、獲物の食べ方に男子も女子も無いだろう。
まさか、その『食べる』というのは……

「覚悟して」
吹雪が意を決した顔をして椅子に座らされた俺の両脚の間に跪く。
「おいっ、待て……」

俺の声に耳を貸さず、吹雪は躊躇いなくベルトのバックルに両手を掛けた。



「クチュ………チュプッ………はぁっ……」

「くっ…止せ……吹雪」

屹立した俺を咥え込み懸命の『奉仕』を続ける吹雪を、俺は上擦り気味の声を絞り出して制止する。
「違うと……言ってるだろう」

「チュパッ……違わないよっ!」

吹雪は俺から離し濡れたままの唇で反論する。
「だって、コレ……書いてある通りちゃんとカチカチで大きくなってるもん…」
猛ったモノに小さな白い両手を添えて……こっちを見上げて必死で訴えられてこっちもさすがに気恥ずかしい。

「とにかく……それじゃあ俺は死なない」
「嘘!……だって本には『精を吐いて逝く』ってあったよ」
吹雪は訝しげに眉をひそめて俺を睨むと「往生際が悪いなあ、もう諦めなよ」と再び俺のを口内に咥えた。

「くっ………」

ここまでくるとシャレにならない。
狭い口の中で吹雪の繊細な舌が旨い具合に俺を刺激して。
欲望をなすがままに翻弄される俺は、吹雪の目的とは違う意味で、完全にイかされたのだった。

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