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8

次の日から、俺は変装をやめた。赤い髪に、少しきつめの美人顔と言われる元の姿で登校する。もちろん、隣には滝を連れて。

だが、滝の位置は今までと同じではない。手をつなぎ、ぴたりと隣につかせている。

「ゆ、柚木く…、あの…」
「何、手離そうとしてんだよ。だめだっつの。お前の位置はここ。」

繋いだ手を持ち上げてその甲にちゅ、とキスをして上目遣いで見上げてやると滝は顔を真っ赤にして空いている手で必死に顔を隠した。

ああもう、かわいすぎんだろ。

あまりに滝がかわいくて教室前の廊下で壁に押し付けほっぺをつついたりといちゃこらしていたらアホどもがやってきた。

「陽太…!?陽太、なのか?お前、その格好は…」
「ひ、陽太!どういうことですか?」
「ひなちゃん…イ、イメチェン…!?」
「「…それでもかわいいのにはかわりないけどぉ。それより、なんで?」」
「…そいつ、くっつく…?」

アホどもがそれぞれにアホ面しながら俺を見て、さらに俺が弄りまくってる滝を見て、と白黒させた目で交互する。

そんな奴らの驚愕の様子なんざ意にも介さず俺は滝を抱きしめいちゃつくのをやめない。滝がひどく焦って俺を押しのけようとするが逆に身動きとれないように壁に押し付けてやる。もちろん、体に痛みを感じさせない様に。

「悪いなあほ共。俺は元々こっちが本当の姿なんだよ。くだらねえ罰ゲームで王道とやらを演じてただけだ。ああそうそう、それから滝の事だけど」
「あ、…!」

心底バカにした顔であっけらかんとネタばらしをしてやると同時に壁に押し付けていた滝の首元に顔を埋めてべろりと舐めてやる。滝はびくりと体を跳ねさせて顔を真っ赤にして小さく首を振ったがおかまいなしに見せつけてやるように滝の首にキスをし、舐めあげ、を繰り返す。

「や、柚木く…、やだ…」
「滝は、俺のもんだ。これからでろっでろに甘やかして恋人にするつもりだから二度と近寄んな。」

俺の言葉に驚愕の目を向けたのはあほ共だけでなく、滝もで。

「こ、恋人にする、って…」
「…お前は俺が好き。俺もお前が好き。だけどな。俺が今までしてたことを考えたら思いが通じ合いましたはい恋人ですってわけにはいかねえんだよ。お前は俺を許すと言ってくれたが、俺が俺を許せねえ。だからな、滝。今までしてたひどい事以上にお前をこれから甘やかす。優しくする。そんで、滝が今以上に俺の事を好きになってくれた時に、俺は初めてお前を恋人にするよ。だめか?」

ちゅ、ちゅ、と頬に口づけを落とすと滝がその目からぽろぽろと涙をこぼし始めた。初めて見せた滝の涙に、あほ共が口を開けてあほ面をしている。…こいつら、まさかギャップにやられたとか言い出すんじゃねえだろうな。

「ゆ、柚木くん、俺、俺…」
「昨日から俺は、お前に惚れてアタックをしてる片思いの男ってやつだ。だから滝、恋人になるまでの間、追いかけられる状況を楽しみな。全力で落としにかかってやるから。まあ、落とした後も離さねえように全力で甘やかすがな。」

優しく撫でてそう言うと、滝は泣きながら笑った。心底嬉しそうな、幸せそうな笑顔。おいこら、アホども。顔赤くしてのど鳴らしてんじゃねえ。

「つーことで、これからお前ら、俺に関わんな。ああ、滝にひどい暴行を加えてたやつら、お前等の親衛隊だって言ってたから俺からの伝言、伝えててくんない?『楽しみにしてろ』ってな。」

そう。親衛隊の奴らは、憧れの生徒会役員たちが群がる俺には手を出せないからと言って知られない様に滝を呼び出し暴行を加えていたらしい。そんな事態を起こしてしまった自分にまた反吐が出そうになったがそれはそれ、これはこれ。きちんと報復はさせてもらうつもりだ。

にやり、と笑って滝を抱き上げると滝は恥ずかしがって俺の首に腕を回して真っ赤な顔を肩に隠した。そのまま教室に入る俺たちを唖然とした顔で見送る役員どもに滝のかわいらしい姿をたっぷりと見せつけてやると歯を食いしばっている姿が視界の端に写った。あいつら、あほだからな。自分の手に入らないと分かったものほど欲しがるガキと一緒だ。滝に惚れたのが丸わかりで腹は立つがこれで滝にもう嫌味を言ったりする事も無くなるだろう。まあ、言ったやつの口は俺が縫ってやるつもりだが。

滝にはもう二度と辛い汚い言葉なんて聞かせたくない。お前はこれから、優しい言葉だけを聞けばいい。

それが俺以外のやつのものからだとしたって、それで滝が傷つかないならそれでいい。

他のやつ以上に、俺もお前に甘い言葉を囁こう。

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