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6

「…俺、…君に、助けてもらったことが、あるんだ…」


…滝を?俺が?


ぽつり、と滝が話し始めた声を聞き漏らすまいと無言で続きを待った。

「たまたま、外出した先で不良に絡まれちゃって…殴られそうになった所を、君が通りかかった。俺を囲んでた五人くらいをあっという間に倒したんだよ。」

いつくらいの話だろうか。五人相手にするなんてしょっちゅうあることで、そこに滝がいたかだなんて全く記憶にない。

「わかってる。俺を助けようとしたんじゃないって。だってそのあと、君の仲間が駆けつけて君と会話したのを聞いたから。その日はチームの抗争があって、敵対してたチームが逃げちゃって追いかけたって。それがたまたま、俺を囲んでたやつらだったってだけの話。」

それでも、と滝が泣きそうに笑う。

「助けてもらえたのは事実だったから、お礼を言ったんだ。そしたら君は、俺に向かって『バカだろ、お前』って…。『お前がいたなんて知らなかった。お礼なんて言って、俺がお前を認識してそいつらみたいにお前をカモにしようとしたらどうする』って。『わかったらとっとと帰れ』って。…そう言って、笑ったんだ。」

そう言えば、そんな事があったような気がする。人助けなんてしたことはないけど、たまたま助ける形になったってことは多々あった。そんな奴ら、たくさんいたけど、礼を言われたのはそいつが初めてだった。ガタガタ震えながら必死に頭を下げるそいつが何だかおかしくて、ほんとにカモになりやすい奴だなって思った。

滝、だったのか。

「俺、その時に決めたんだ。もしまた出会うことがあって、この人に何かあったら、その時は今度こそ俺が恩返しをしようって。初めてだったんだ。そんな気持ちになったのは。…君が転校生としてきた時、変装してたけど君だってすぐ分かった。あの時俺を助けてくれた君だって。同室になって、ソファで変装を解いて寝ている君を見てやっぱりって思った。でも、君は全然前に見た様子と違ってて。すごくすごく楽しくなさそうだった。…俺、君が俺をストレス解消の道具にするって言った時、すごく嬉しかった。」
「え?」

微笑んでそう言う滝に、怪訝な顔をして返事を返す。嬉しかった?なんでだ?あんな、奴隷みたいな扱いを受けて何が嬉しいってんだ。全く訳が分からない、という顔をする俺に滝は微笑んだままだ。その笑みに、胸の奥がぎゅっと痛くなる。こんな扱いを受けても、どうして俺にそんな笑みを向けられるんだろうか。滝の顔を見ていると、罪悪感だけじゃない何かがじわじわとせりあがってきてどうしようもなく抱きしめたくなる。
そんな風に思う自分がわからなくて情けない顔をしている俺に滝はそっと手を伸ばして俺の頬に触れた。

「そんな顔しないで。…俺、君のそんな顔が見たくて、ストレス解消に使われたかったんじゃない。君があの日見せてくれた笑顔がどうしても忘れられなくて。ずっとずっと、笑ってほしくて。君が笑顔になれるなら、俺はどんな扱いを受けても平気だったんだ。俺を使うことで君が笑顔になってくれるなら、どんな仕打ちを受けても構わなかった。君に何をされても構わなかったんだよ。
…そうだよ。俺、君が初めに言った通り、君が好きなんだ。大好きなんだ。大好きな君の為なら、君の傍にいられるなら、俺なんてどうなってもよかった。たった一度だけでもいい。あの日の笑顔を見れるなら、どんなことでも耐えられたんだ…!」

途端に顔をくしゃりと歪ませて、滝は初めてその目から涙をこぼした。

滝が。

誰に何をされても、何を言われても、絶対に泣かなかった滝が。

「き、もち、わるくて、ごめ…!でも、俺、君が、すきで…っ!ただ、君のそばに、いたくて…っ!」
「滝」
「柚木、く…、ごめ…っ!利用して、ごめ…!」



傍にいたいがために、奴隷の立場を利用してごめん。



途切れ途切れにそう謝り続ける滝を、俺は自分の胸にかき抱いた。

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