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「そんなになるまで?じゃあここまでじゃなきゃやってもいいってのかよ。仮にも学園のトップに立つ野郎どもが揃いも揃って嫉妬に狂ってバレねえように一生徒に暴行を加えるなんざ大したトップだぜ。なあ?」
「ひ、陽太…」
「わ、私たちは、その…」
いつもの俺と様子が違うことに気付いた奴らがひどくうろたえ言い訳に口ごもる。そんな奴らの滑稽な姿が腹立たしくて、ムカついて思わず殴りかかりそうになった拳を強く握りしめてくるりと向きを変え、気を失う滝のそばにしゃがみ込んでそっと頭を撫でてから、滝を姫抱きにして立ち上がると無言で教室の出口へと向かった。
「陽太!どこに行くんだ!」
「そ、そうですよ!そんな奴を抱えて…」
「ひ、ひなちゃん、もしかして保健室?あの、俺、俺が代わりに連れてくよ」
「「ていうかさ、べ、別によくない?」」
「そいつ、じゃま…」
俺の言葉を聞いてもなお、俺が滝を抱き上げたのが気に入らないのだろう。ほんとに、どこまでクズなんだろうか。
返事をする気にもなれず、無視をして奴らを置き去りにして滝を連れ教室を出た。
廊下を歩きながら、俺は自分の行動をずっと思い返していた。わかっていたはずだ。滝があいつらによく思われていないことくらい。滝を置き去りにすれば、どうなるかぐらいは予想できたはずだ。
寮に戻り、そっと滝をベッドに寝かせて前髪をあげる。どこにでもいそうな、平凡な顔。だけど、見ているだけで胸が苦しくなる。
なぜ?
前髪をあげて、滝の額にそっと自分の額をあてる。間近に聞こえる滝の吐息に、また胸がぎゅっと苦しくなる。
「…っ、滝」
知っていた。知っていたんだ。予想はしていた。滝が、あいつらにひどい扱いを受けるかも知れないと。
何もいわない滝。
言わせたかった。
『助けて』って、俺だけに縋って欲しかったんだ。
一緒に横になり、抱きしめていると滝が体を動かしてその顔を上げた。目を開けてすぐに俺をみとめ、自分の状態にひどく驚いてうろたえる。
「滝」
「…」
「声を出してもいい。今から聞くことに答えてくれ」
命令口調ではあるが、俺にとっては懇願だった。
「俺がこわいか?」
ふるふる、と滝が頭を横に振る。
「…もう、お前を脅したりしない。俺のそばにいなくていい。」
俺の言葉に、滝は目を驚愕に見開いて先ほどよりも激しく頭を横に振りぎゅうと俺の服を握りしめた。
微かに震える滝の頬にそっと手を当て、じっと見つめる。
「…っねが…、」
「うん?」
「…ぉ、ね、が…、そば…に、いさせ、て…」
小さな小さな、消え入りそうな声でこんな目にあってもなお俺のそばにいたいと懇願する。
久しぶりに聞いた一言が、まさかそんな言葉だなんて。
「滝…、どうして?どうしてお前は、そんなになるまでして俺のそばにいたいんだ?イヤじゃないのか?…俺にあれだけひどい扱いを受けて…、俺のせいでこんな目にあって、恨んでないのか?」
滝の体がぼろぼろになったのは俺のせいだ。俺が、自分のために連れ回していたから。あいつらの怒りが滝に向くのがわかっていたくせに、自分の側に無理矢理置き、いらつくからと言葉を奪い敵地のど真ん中に置き去りにし。
それでもなお、なぜそんな目をする?
涙を浮かべる滝の目には、俺を避難する色やまして恐れている色なんてなくて。むしろ、捨てられている子犬のようだった。
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