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4

「…ごめん、なさい」

ふっと目を伏せ小さな声で謝る滝にまたかっと血が上る。

「うっせえ!てめえの謝罪なんざ聞きたかねえんだよ!自分が悲劇のヒロインにでもなったつもりか、あぁ?似合わねえんだよ!ほんっとにうっとおしいやろうだな、いいか?てめえはただの俺のストレス解消の道具なんだよ!道具がいっちょ前に人間の言葉話すんじゃねえよ、てめえの声いらいらすんだよ!二度と喋んな!」


胸ぐらをつかんで怒鳴る俺を滝のビー玉のような目がじっと見つめる。少しの間無言でいた滝が、無言のままこくりと頷いた。
ソファに投げつけるように滝から手を離し、わざと大きな音を立てて自分の部屋に閉じこもる。ああ、いらいらする。なんだってあいつはああなんだ。男のくせにやられっぱなしでろくに反抗もしやがらねえ。かと思えば、『俺のそばから離れない』だなんてことだけきっぱりと言い切りやがる。

滝があいつらに向かい合って要求を拒絶したあの時を思い出すと全身にぞわりと妙な感覚が走った。初めて味わう感覚に脳内が混乱する。

誰になに言われようが俺から離れねえだと?あれか、あいつはストーカーかなんかかよ。確かに憂さ晴らしのためにそばにいろっつったのは俺だが、なんであいつはそこまで言い切る?
あんな平凡な男が俺に対しての執着を見せたら、そりゃあいつらだって怒るだろう。自分の立場ってもんをわかってねえのか、あいつは。

やつらにいいように文句を言われてじっと俯く滝の事を思いだすだけでイライラがまし、なんとも言えずもやもやとした感情が胸を渦巻く。あいつを好き勝手に罵っていいのは俺だけだ。

そのままごろんと横になり、目を閉じた。



次の日から、滝は俺の言いつけを守っているのか一切口をきかなくなった。ただ、黙って俺の言いなりになって側に立ち、言うとおりに命じられたことをこなす。
俺の取り巻きの役員の奴らも、急に口をきかなくなった滝に初めは困惑したものの、逆にそれが癇に障る態度だったのかますます暴言やイヤミを吐くようになっていた。


俺は自分がそうしろと言ったにもかかわらず、一切言葉を発することのなくなった滝に余計にイラつくようになっていた。

「ほんとにてめえは情けねえ男だな。ああ?」
「…」

部屋に戻ると苛立ちをぶつけるかのように罵る俺に対しても、困ったように眉を下げて苦笑いをするだけで絶対に口をきかない。きっとこいつのことだから、俺が一言でも『何かしゃべれ』と言えば言葉を発するだろう。だが、俺はそれを自分から言うのはどうしても嫌だった。怒りでもすればかっとなって思わず叫んだりするんじゃないかと、以前よりもひどい言葉を投げつけていく。それでも滝は悲しそうに笑うだけで、一言も発することはしなかった。

そんな滝と一緒にいるのが腹立たしくて、俺はよく『トイレ』だの『先生に呼ばれた』だのと言って滝を一人置いてしばらくふらふらと出歩くことが多くなった。



俺が出歩くようになってから、滝の様子がおかしい事に気が付かずに。



その日も俺はいつもと同じように俺にまとわりつくやつらに上手い事言い訳をして一服をしに出た。教室を出る前に滝をちらりと見たら、滝は俺の方を見ていなかった。いつもは特に気にもならない滝のその態度が何故かその時にはひっかかって、俺は火をつけた煙草を一度も吸わずににじり消して教室へと駆け戻った。



「てめえ、いい加減にしろよ。」
「本当に懲りない人ですね。あなたが悪いんですよ?陽太の傍から離れないから」
「ほんと〜。こんだけいたい目に合ってるのに離れないなんて、もしかしてマゾなのかにゃ〜?あはははは」
「「声出さなくなったからやりやすいよね〜」」
「…次、俺…」

役員の奴らのムカつく笑い声が聞こえて少しして、ズドッという何か詰まった物でも殴ったような音が聞こえる。聞きなれた音に、全身からスッと血の気が引く。
今の音を、俺は知っている。俺がよく聞く音。どこでだ?ああ、そうだ。あれは確かチームの抗争で…

思考にふけっていると二度、三度と同じような音が聞こえ、くぐもったうめき声が聞こえげらげらと笑うやつらの声が耳に届く。何をしている。何をしてやがるんだ…!

「早く消えちゃいなよ、っと!」
「ぐう…!」

ズドン!と一際重い音が聞こえたと同時に押さえていたうめき声が漏れる。
低く響いたその声に、俺は扉を壊さん勢いで思い切り開けた。



「…なにやってんの」
「ひ、陽太!」
「陽太、は、早かったですね」
「よ、用事は終わったの?」
「なにやってんのって聞いてんだよ」



思わず演技をするのも忘れて巣のままで聞き返すと、役員の奴らが驚いたように目を見開いた。そのアホどもの真ん中、囲まれてうずくまり床に倒れ込んでいる

「…滝」

視線を滝に固定したままずかずかと奴らの所まで歩いていく。

「ひ、陽太!彼は」
「うるせえ」

しゃがみ込んで滝にふれようとした俺の肩をつかみそれを阻止しようとする副会長の手を思い切り叩き落とす。ショックを受けたような顔をしてるがんなもん知るか。

「滝」

俺の呼びかけにも答えない。気を失っているらしい。うつぶせに倒れている滝の肩を掴んで仰向けさせるとだらりと投げ出された腕の袖口から、ちらりと何かが見えた。
袖口のボタンを外し、肘上まで袖をめくりあげる。

「…これはなんだ」

滝の腕には、10個以上もの根性焼きの跡があった。滝の腕を見たあいつらも、何故かひっと小さく声をあげて息をのんでいる。
ついで、きっちり閉じられているシャツのボタンをはずしていく。大きく広げ現れた素肌には、変色している所なんて見あたらないほどにひどい青あざがあった。


表だけでこれほどなんだ。きっと背中や足なんかもひどいのだろう。根性焼きだって、片腕の肘までであれだけの数だ。素っ裸にしたら、一体どのような状態なのだろうか。

「こ、こんなにひどいなんて…」
「え、な、なに。なんなのその体。え、お、俺たち、そんなになるまでやってないよね…?」
「うるせえ」

滝の体を見た役員たちがあまりの惨状に真っ青になって言い訳を口にする。
俺は滝の体を見て、怒りに目の前が真っ赤になっていた。

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