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3

翌朝、いつものように滝を連れて学校へ向かう。何も言わなくても俺の後をついてくる滝。いつものようにあほな役員どもが俺の前に現れ、いつものように茶番劇が始まった。

「なんだてめえ、まだ陽太の傍に引っ付いてやがんのか。」
「いい加減離れたらどうなんですか?」

どれだけ罵声を浴びせられようとも、滝は決して反論したりはしない。ただ黙って俯いて、俺のそばにいる。
そんな悲劇のヒロインぶった態度も気に喰わない。言いたい放題言われて黙ってるなんてそれでも男かよ。滝のそういうところも俺が気に喰わない所の一つだ。

「やめてよ!滝くんは、僕の親友なんだ!」

こうして女みたいに目を潤ませて懇願するのも何回目なんだよ。いい加減飽き飽きだ。早く二か月たたねえかなあ。

そんな俺を、滝は何も言わずただ黙って見ていた。



そんなある日、俺は先生に呼び出されて一人で職員室に行かなくてはいけなくなった。バカ役員どもがついて来ようとしたのだが、先生に注意され渋々教室で待っているとあきらめた。
用事を済ませて教室に戻ると、何やら声が聞こえる。どうやら罵声を浴びせられているのだが、そういえば滝をあいつらと一緒にここに置いてきたままだった事を思いだした。つまり、中で罵声を浴びせられているのは滝ということか。

ちょっと面白くなって、そっと教室に近づくと教室の扉に屈んで耳をつける。

「いい加減にしてくださいね。あなたが陽太の傍にいると迷惑なんです。」
「てめえみたいな平凡が俺様の陽太の隣に居座ろうなんざ10年早えんだよ」
「邪魔なんだよねえ〜、男が欲しいなら俺の友達紹介してあげっからさ、陽太ちゃんから、離れてくんない?」

案の定、奴らに罵声を浴びせられているのは滝だった。

滝は相変わらず何も言わない。こいつ、ほんとに情けない男だな…。
そう思って扉を開けようとしたその時だった。


「…離れ、ません。柚木君の、そばにいます。」


その場にいる誰もが、言葉を忘れてしまったかのように黙ってしまった。

なんだって?俺のそばにいるだって?

滝の言葉をぐるぐると反芻していると、がん!と机を蹴り上げる音が聞こえて次いでガタガタと激しく机が倒れる音がした。

「てめえ、舐めてんのか!」

どうやら会長様が滝の胸ぐらをつかんで引き寄せたらしい。

「陽太の傍にいる、だと!?どの面下げてそんな厚かましい事ぬかしやがる!」

会長の怒声が響き、滝の苦しそうな声が聞こえる。

「な、にを言われても、離れません。柚木くんの、そばにっ…、…ぐ!」

ガツン!と骨がぶつかる音がして、さらに激しく机の倒れる音がする。多分会長が滝を殴ったのだろう。

「てめえみてえな平凡野郎が、あいつの名前を軽々しく呼ぶんじゃねえよ!」
「本当に…身の程知らずにもほどがあります。ああ、そうですか。もしかして、陽太の傍にいて私たちと近づこうとたくらんでいるんですか。何と浅ましく厚かましいんでしょう。」
「さいってぇ〜…これさあ、ちょっと教育してあげなきゃいけないんじゃない?」
「う、あ…!」

呆然としていたら今までの比ではない滝の悲鳴に近い呻き声が聞こえ、ぞわりと胸の奥あたりが鳥肌が立つようないやな感覚に陥る。

あいつら、なにやってんだ!滝が使い物にならなくなったらどうしてくれる!

俺は慌てて扉を開けると、中に転がりこむように一歩踏み出してしまった。急に開いた扉に皆驚きこちらを見る。会計の奴が、入ってきたのが俺だとわかると滝の指から素早く手を離したのが見えた。


――――指を折ろうとしやがったのか。


「…なに、してるの?」
「い、いや?別に何もしてねえぜ。ただちょっと仲良く話をしてただけだがな。なあ?」
「ひ、陽太ちゃんこそどうしたの?用事終わったなら、電話くれたら迎えに行ったのに〜」


思わずいつもと違う低い声が出てその空気を感じ取ったのか会計がぎこちない笑顔を浮かべる。その顔をぶん殴ってやりてえ。よくもさらりとごまかせるもんだな。

「滝君、帰ろう。」
「え…」
「ひ、陽太?」

周りの奴に目もくれずに、滝の前まで行って滝の手を引き、歩き出す。

「陽太ちゃん!」
「陽太!」

後ろからアホ役員どもが俺を必死に呼ぶが無視だ無視。俺の玩具を勝手に壊そうとしやがって。

あまりの苛立ちに返事を返さず滝を連れその場を去った俺のこの行動が、その後の最悪の事態を生み出すだなんて予想もしなかった。



「…てめえ、何でやり返さねえんだよ」
「え…」

部屋に戻った俺は滝をソファに座らせ、いらいらと言い放った。おどおどと視線をさまよわせ体を小さくする滝にいらだちが増す。

「…っ、んっとにダセエ野郎だな!うじうじうじうじしやがって!あんな奴らに言われたい放題で言い返すこともできねえのかよ!」
「…!」

怒鳴ると同時に、滝の顔に拳を振り下ろす。ソファに倒れ込んだ滝が殴られた頬を押さえながら顔を上げた。



「…っ、」



悲しそうに潤んだその目に、じくんと。
胸の奥が何かを叫んだ気がした。

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