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2

だが、そいつらよりもはるかにムカつく人間を俺は見つけた。それが滝朝日(たき あさひ)。俺がここにいる間、同室者になった男だ。初めて挨拶したとき、滝に関して俺は何とも思わなかった。かわいこぶって挨拶する俺に対して普通に挨拶を返しただけだったから。ああ、その時の笑顔は優しそうで好感が持てたなあ。

何だかほんのりと空気が甘くなると言うか、笑顔だけで居心地いいなんて感じることがあるんだなと何だか初めての感覚に不思議な気がした。

それが一転したのは次の日の事だ。風呂に入って上がった時に、俺は慣れない演技につかれてそのままソファでうとうとしてしまった。しばらくしてから、胸の上の圧迫感と息苦しさにふと目が覚めた。

ゆっくり瞼を開けると、ぼやけるほど近くに同室者である滝の顔。

その時に俺は、滝に上にのしかかられてキスをされていたのだ。

「…てめえ、なにしてやがる」

俺の上にいる滝の肩をぐいと押し、思い切り睨みつけてやると滝は自分の口を押えて困惑したような顔をした。
自分がしかけていたくせに被害者ぶったツラをした滝に怒りのバロメーターが一気に跳ね上がる。ガツン!と俺の上からけり落として、床に倒れた滝の頭を踏みつけてやった。

「よくも人が寝てる隙に好き勝手なことしやがって。俺が背が低いからって簡単に組み敷けるとでも思ったのか?それとも俺の事が好きだとでもいうつもりなのかよ、あぁ?」
「…っ!」

ぎりぎりと踏みつける足に力を入れるが、滝は何も言わない。口を噛みしめ痛みに耐える滝にまた一層いらだちが募る。
この学校はホモばっかりかよ。人の好い笑顔を浮かべてやがったくせにとんでもねえペテン師だ。
油断していたとはいえこんな平凡な奴にまで手を出されるなんざチームの皆のいい笑いのネタだぜ。

どうしてくれようか、と考えて無抵抗の滝を見て俺はふと思いついた。演技がバレたら罰ゲームは俺の負け、幹部の奴のパシりを2ヶ月することになっている。

あんな奴のパシりをするだなんて真っ平ごめんだ。だが、ここにいる間、休まずあんなバカな頭がお花畑の真似をずっとするのは正直骨が折れる。

だが、この部屋にいる間だけでも素を出せたらずいぶん楽になるだろう。足の下にいる同室者のこいつは大人しい。先ほどのことで弱みを握ったも同然だ。これは利用できるんじゃねえか?

俺はニイ、と口角を上げて踏みつける足をどかし、しゃがみ込んで滝の前髪を掴んで顔を上げさせた。

「いいか。俺はくだらねえ罰ゲームのせいでこんな腐った来たくもねえところに来なきゃいけなくなったんだ。しかも、演技までしてなきゃいけねえ。正直ストレスがたまってしょうがねえと思ってた所だ。…だから、この部屋で、お前の前でだけは俺は素に戻る。さっき俺にしたことをバラされたくなきゃ俺の下僕になれ。わかったな?」

痛みをこらえながら無言で小さく返事をした滝の顔をぺしぺしと叩き、前髪を離してやる。

罰ゲームの期間は二か月。その間せいぜいこの部屋ではお前をいいストレス解消の道具にさせてもらうぜ。



それからというもの、俺は演技をしながら部屋の中ではカツラとつけまつげを外しいつもの自分に戻る。部屋にいる間は滝の奴をさんざんこき使ってやった。

パシりは当たり前、飯の用意から部屋の掃除など家事全般はもちろん滝の仕事だ。アホの相手で疲れた後散々八つ当たりの罵声を浴びせる。

滝は、一言も文句を言わずただ俺の言いなりだ。

なんて便利な道具なんだろうか。使い勝手がいいぜ。


そのうち、俺は部屋の中だけじゃ足りなくなった。考えてもみろ、あんなアホな奴らに学校にいる間四六時中ひっつかれてるんだ。学校と寮、どっちの方が長い?
俺は学校でもストレス解消の道具を側に置くことにした。

親友なんです!と滝を連れまわすことで、いつでも滝を好きにできる。

滝は一言も文句を言わず俺の言うなりになって俺のそばに常にいる。まあ、文句なんざ言わせねえがな。この俺が寝てる隙に手を出そうとしやがったんだ、当然の報いだろ。
俺と一緒にいるせいでアホどもになんか言われたりしてるが、そんなもん知らねえ。言い返さねえこいつが悪いし?


ゆっくりとマッサージされる背中に滝の手のぬくもりを感じながら俺はうとうととし始めた。

「…柚木くん?眠いの?」
「ん…」
「いいよ。ご飯が出来たら起こしてあげる」
「…てめえ…、俺が、ねてる間に…逃げたりすんじゃねえぞ…」

最後まで言うと同時にすう、と意識が遠ざかる。

「…逃げたりしないよ。するわけない。だって、俺…」

滝が遠くで何かつぶやいたような気がしたが、眠りに落ちた俺はそれを確かめるすべもなかった。

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