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3

俺はそれからずっと寝たり起きたりの繰り返しだった。薬の中に眠くなる成分が入っているのもあるんだろうけど、目が覚めても目を閉じるだけですぐに眠気が襲ってきて深い眠りについてしまう。

入院中、母さんが来てくれたのは知ってる。倒れたその日に目が覚めたタイミングでちょうど病室にかけてきたんだ。血相変えてたけど、先生から説明を受けて一週間ほどで退院できると聞いてホッとした顔をしていた。(どう見ても先生のイケメンさにぽーっとなってたような気もするが)

母さんは正社員なので会社を休めない、と言ったら先生がものすごくいいスマイルで

「ご安心ください。当病院は完全看護ですので付添は結構ですよ。」

と言ったのを聞いて、夜に一回来るだけになった。

俺は、寝たり起きたりを繰り返しながらどうして俺が目覚めた時には必ず先生がいるんだろうか、なんてぼんやりと考えながら大人しく入院生活を過ごしていた。


それから二日ほどして、ようやく熱も下がり眠るばかりの生活からある程度昼間は起きている通常の生活リズムに戻れた俺はひどく困惑していた。

というのもあれだ。
担当医だからか知らないが、入院中の俺の世話を全てこの初めに診察をしてくれた、加藤先生がしてくれるからなのだ。入院なんてしたのは初めてだし、医者なんてよっぽどのことがない限りはかかったことのない俺は医者というものがどんな風にどこまで世話してくるものなのかなんて知るわけもない。それでも、さすがに俺のところにいる頻度が高いんじゃあないかと思ってそれとなく尋ねてみた。

「これが私の仕事なのですよ。あなたが何も気に病むことはありません」

そう言ってにこりと微笑まれると、医者の仕事をよく知らない俺が反論できるはずもなく、ただそうですかとしか言えない。

そして、もう一つ。

「さ、体を拭きましょうか。」
「あ、はい…。」

俺の、困惑するのはこれ。加藤先生が、風呂に入れない俺の体を濡らしたタオルで拭いてくれるのはいいんだが、その…あれだ。必ずといっていいほど、加藤先生の指が、その、俺の乳首を幾度も掠めるのだ。その度に思わず体がびくりと反応してしまいそうになり、せっかく先生が医者として行ってくれるこの行為を変な風に受け止めてしまう自分が恥ずかしい。毎回自分のそんな反応がばれない様に、必死に平静を装おうのだ。



「失礼します」

体も順調に回復に向かい、明後日には退院となったある日、一人の看護師が俺の病室にやってきた。確かこの看護師は、入院した初日に目が覚めた時俺の腕に点滴をしてた看護師だ。とはいえ、会ったのはそれっきり。入院してからというもの、加藤先生以外と接した記憶があまりない。それほどに俺の所には先生しかやってこないのだ。

「困るんですよ、赤川さん。」

その看護師は、病室に入って俺の前まで来るなりいきなり眉間にしわを寄せさも迷惑だ、というようにため息をついた。

「いくら加藤先生がすぐれたお医者さまで診て欲しいからって、独占されては困ります。」
「は?」


言われる意味が全く分からなくて、ぽかんと口を開けてしまった。なんだって?独占ってなんだ?

「あの…」
「いくら先生が熱心な先生で、一度受け持った患者さんを大事にするのをわかっていらっしゃるからってそれにつけこんで先生を呼びつけないでください。入院中の身の周りの事で不都合があれば私たち看護師に言ってください。わかりましたね?」

そういうと、看護師さんはさっさと踵を返して病室を出て行った。バタンと乱暴に絞められた扉を見つめながら俺は言われた言葉を頭の中で整理する。

先生が俺のところにくるのは、無理をしてだったのか。たしかにそうだ。いくら主治医だからといって風邪をこじらせただけの患者の元に足しげく通って全てやってくれるだなんて、本来ならばあり得ないことなんだろう。

俺ってば知らないうちに先生を呼びつけてたのか。


「迷惑、かけてたんだ。」


この病院にも、ここに来る他の患者さんにも、…先生にも。


そう思うとズキズキと胸が痛む。申し訳ない。あと二日、もう先生の手を煩わせない様にしよう。

『大丈夫ですよ』

布団に頭から潜り込んで、優しく微笑んでくれる先生を思いだしてぎゅっと目をつぶった。

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