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「え…?」
「あ!お、おうじさま!ごめんなさい、今、今箱に入れてベッドのお部屋に持っていくから!僕、運んでいる最中に躓いて転んじゃって…」
えへへ、と笑いながらいそいそとグッズを全て傍に転がっていた箱に詰め込み、よいしょと持ち上げて寝室へとひょこひょこ歩いていく哲平に雅史はただただ呆然としていた。
え?なに?今のなに?なんなんだ?
思考が停止していた雅史は、いつのまにやら姿の見えない哲平にふと我を取り戻し、慌てて哲平を追って寝室へと向かった。
「て、哲平!どうしたんだい?さっきのは一体…、…っ!」
寝室に飛び込んで、その場の光景を見て雅史は再び固まった。
「…哲平…?」
そこには、先ほどの道具をベッド一面に広げその真ん中にパンツ一枚の姿になってちょこんと正座をする哲平がいた。
「お、王子様。あの、あのね、その…、え、ええええ、えっちをしてください!」
三つ指をついてがばりと頭を下げる哲平に雅史はくらりとめまいがした。
どうして。なんで。一体何が起こったというのか。あの、純粋無垢で何も知らない哲平が、真っ白なお姫様の哲平が。卑猥な玩具に囲まれて自分のベッドで下着一枚の姿で、自分に向かって『えっちをしろ』という。
確かに、ずっとずっと喰いたいのを我慢していた。だが、雅史はその光景を前に理性が飛ぶどころか逆に呆然としてしまった。
「あの、あのね、えっと、恋人同士って、えっちをして愛し合うの!えっちって言うのをして、好きだって確かめ合うんだって!それで、それでね、僕達、まだそんなことしたことないでしょ?だから僕、勉強したの!たくさんたくさん勉強したんだよ!えっちに必要な道具も、インターネットで買ったんだ!だから、だから、王子様!えっち、してください!」
必死になって訴えて雅史に近づく哲平の手には、ウインウインと唸り捩れるように動くグロテスクな男性器を模したバイブ。そして、赤い荒縄と手錠が掴まれていた。
「だめだめだめだ!!!哲平、だめだ!そ、それを離しなさい!」
「やだ!えっちするんだもん!」
じりじりと近づく哲平と、近づくにつれ後退する雅史。雅史は全くの予想外に完全にテンパってしまって、とにかくそれを離させようと必死になるが首を振り下がることしかできない。哲平は哲平で、とにかくえっちをしてくれとそればかりを口に何やら血走った目で近づいて来る。
「いい加減にしろ!お、俺はそんなもんしねえぞ!」
「…!」
突然怒鳴った雅史に、哲平はびくりと体を跳ねさせピタリと動きを止めて大きく目を見開いた。
「…お、じ…さ、ま…」
カタカタと震えだした哲平を見て、雅史は自分が本来の口調で怒鳴ってしまったことに気付き慌てて口を押える。
「て、哲平」
「…どう、して…?ど、して、えっち、して、くれな…の…」
「哲平、違う。俺が、いや、僕がしたくないのはその道具を使うことであって…」
ぽろぽろと涙を流ししゃくりあげだした哲平に雅史は必死に言い訳をするが、哲平はそのまま立ち上がり脱いでいた服を震えながら身に着けるとベッドから降りて雅史の横をすり抜ける。
「お、王子様の、ばかああああ!」
「まっ、待て、哲平!」
そして、そのまま泣き叫びながら部屋を飛び出してしまった。
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