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6

ばか、ばか、王子様のバカ。嘘つき。


泣きながら、哲平はやみくもに走り続けた。走りながら、雅史の顔を思い出す。

王子様、ものすごく嫌そうだった。『そんなことしない』って言った。
僕、王子様と恋人同士なんだって思ってたのに。王子様は違ったんだ。

「あう!」

何かに躓いて、哲平は走っていた勢いのままどたりと転んでしまった。むくりと起き上がって膝を見ると、思い切り滑り込んでしまったために制服が破れ膝から血が流れている。

「…いた…」

ずきん、ずきんと痛む膝に合わせて、哲平の胸も痛くなる。
好きだと、言ってくれたのに。自分は、大事なお姫様だと。王子様は、自分の王子様なんだと言ってくれたはずなのに。


「ふ、ええ…、うそ、つき…。王子様の、うそつきい…。」
「嘘なんかつかないよ、哲平」


血の流れる膝を抱えてぐずぐずと泣いていると、ふわりと後ろから抱きあげられた。驚いて見上げると、そこには汗だくになって自分を姫だきにする雅史がいた。

「王子様…」
「怪我しちゃったんだね。哲平、今はとにかく大人しくして。部屋に戻ってちゃんと話そう。ね?」

いつものように優しく微笑まれ、涙を流しながら哲平はこくりと頷いた。



部屋に戻ると、ベッドに座らされてズボンを脱がされた。

「や…!」
「…さっきは自分で脱いでたのに?」

くすりと笑われて、真っ赤になって下を向く。

「だ、だって…」
「うん、ごめん。ちょっと意地悪言っちゃったね。とにかくけがの手当てをしようか。」

こくりと頷くと、雅史は救急箱を手に黙々と哲平の膝の手当てをしてくれた。優しく血を拭い、消毒薬を付け、ばんそうこを貼る。その一連の優しい手当をじっと見ているうちに、哲平はまたぽろぽろと涙をこぼしだした。

それに気づいた雅史が、優しく額にちゅ、と口づけて哲平の頭を撫でる。そしてそのまま隣に座り、優しく哲平を抱き寄せるとぽんぽんと子供をあやすように背中を叩いてくれた。

「…王子様、僕の事、嫌いになった…?もう、恋人じゃ、ない…?」
「嫌いになんてなるはずがないじゃないか。哲平は僕の大事な恋人だ。どうしてそう思ったの?」
「…だ、て…、えっち、してくれな…」

ぎゅう、とすがるように雅史の制服を掴み、胸に顔を埋めてひっくひっくとしゃくりあげる。その姿に、雅史はどうしてそこまでえっちに拘るんだろうかと疑問がわいた。

「…聞いても、いいかな?どうして急に、そんなにえっちがしたくなったの?」
「…良平が、お兄さんと…、えっちしてたの…」

ぽつりとつぶやいた哲平の言葉に、ああ、先ほどの電話はそれだったのかと雅史はため息をついた。

あのくそアニキ、大人しく大学に行ってるかと思ったら我慢できなくなって寮に忍び込みやがったな!気持ちはわからんでもないが、せめて扉の鍵を閉めてやりやがれ!

心の中で実の兄に悪態をつきながら、雅史は哲平の言葉の続きを待つ。


「…えっちはね、恋人同士がすることなんだって。愛してるって、体全部で教えてもらうためにするものなんだって。僕、それ聞いて、それ聞いて…」



哲平は、焦ったのだ。今の今まで、自分はそんな行為があることなんて知らなかった。えっちをしなくても、王子様は自分の事を好きだと言ってくれたけど。早くしないと、愛が冷めてしまうんじゃないか。好きが、少なくなってしまうんじゃないかと。


「僕、僕、王子様に嫌われちゃったらどうしようって…、ほ、他に、好きな人が出来ちゃったらどうしようって…!そ、それに、それに…!」
「…それに?」
「そ、そのお話してくれる時、良平、すごくすごくきれいだった!し、幸せそうだった!ぼく、僕も…っ、良平みたいに、きれいになりたかった…!」



『愛してもらってたんだよ』


そう自分に告げた時の良平の顔は、今まで見たことがないほどに優しく、本当に幸せそうだったのだ。哲平は、自分が良平や以前雅史のお姫様だと名乗っていた者のように美しい容姿をしているわけではない。雅史が自分を大切に思ってくれているのはものすごくよくわかるし、感じる。それでも、時折雅史に群がる美しい容姿の人たちと自分を比べて、不安になる。


王子様に、大好きな王子様に、えっちをしてもらえたなら。


自分も、良平のように美しくなれるのではないかと考えたのだ。



「…ばかだなあ、哲平。」

雅史は泣きじゃくる哲平の頬を優しく撫でると、口元にちゅ、と一つキスを落とした。

「何度も言ってるけどね。哲平は、かわいいよ。見た目だって、その中身だって、全部全部かわいくて仕方がないんだよ。…でも、哲平は、不安なんだね。気が付いてあげられなくてごめんね。」


哲平の思いの内を聞いた雅史は、哲平を優しく抱きしめ背中を撫でる。哲平の抱える不安は、いくら雅史が言った所ですぐに無くなるものではない。これだけ毎日愛してる、かわいいと伝えていても、自分だって哲平が自分を嫌になるんじゃないかとふと不安になる時だってある。誰しも、不安を抱え、その度に一つ乗り越えて、また不安になって、を繰り返す。
自信満々に愛し愛されていても、いや、愛されているからこそ不安に思う時だってあるのだ。

「…哲平。僕だってね、不安なんだよ。」
「…王子様が…?」

ちゅ、と頬に口づける雅史を、哲平が涙でぬれた目で見上げる。信じられない。王子様である雅史が、一体何を不安になることなんてあるのだろうか。そんな気持ちで雅史を見つめる哲平に、雅史は困ったように眉を下げて笑顔を見せた。

「哲平。僕は、僕だって君とえっちをしたいよ。でも、でもね。…さっき、僕が君をついつい怒鳴ってしまったのを、覚えてる?」

雅史の問いかけに、無理に『えっちをしてくれ』と迫った時の、自分に怒鳴った雅史を思いだしてこくりと頷く。あの時の雅史は、自分の知る王子様ではなかった。あんな乱暴な口調をする雅史は、初めて見た。

「僕はね、その…。時々、あんな話し方をしてしまう時があるんだよ。ちょっと乱暴な…、不良みたいな、ね。えっちの時、もしかしたら、興奮しちゃってあの時のような話し方になっちゃうかもしれない。もし、それで哲平が僕を怖がって…、そのせいで、嫌われてしまったらって、すごくすごくこわ…」
「そ、そんなことない!!」

雅史が最後まで言う前に、哲平が大きな声で否定した。先ほどまで不安で濡れていた目が、強い決意を持った輝きで雅史を見つめる。

「てっぺ…」
「僕、大丈夫だもん!お、王子様が好きだから!例えこわいお話の仕方だったって、ふ、不良だったって、王子様は王子様だもん!」


そう言って、雅史に抱きつく。


「あ、あのとき、ちょっとだけ怖かったけど、王子様だから…。」

雅史の手を取り、自分の頬へ当てるとすり、とネコのように顔をすり付ける。そして、ほんのり桃色に染まった頬をして、涙に濡れた目で雅史を見上げ



「…王子様になら、なにされても平気だよ…?だから…、…っん!」



その言葉の先は、合わさってきた雅史の口の中に吸い取られてしまった。



「…後悔しても、知らねえぞ。」



ぎらりと、熱く鋭い眼差しを向けられ、哲平はこくりと頷いた。

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