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3

「あり?哲平ちゃん、どしたの?」
「お邪魔します!」


部屋を飛び出した哲平が向かった先は、同じクラスのチャラ男くんの部屋だった。日直が一緒で仲良くなり、哲平が王子様と恋人だということも知っている。何より、このチャラ男くんは哲平には内緒にしているが雅史のチーム、『シーザー』の幹部の一人だった。
恋人になった翌日に、チームの集会場でクラスでの哲平の見張り役に抜擢されていた。

「か、烏丸君、お願いがあるの!」

部屋に押し入るなり、自分のカバンからメモ用紙と鉛筆を取り出して正座をする。チャラ男こと、烏丸達治(からすまたつじ)はなんのこっちゃと首を傾げた。

「ぼくに、えっちの仕方を教えてください!」
「無理!!!」

べたん!と顔面を打ち付ける勢いで土下座した哲平に速攻で断る。

なんつーことを言い出すんだこのお姫様は!

「なんでそれを俺に言うの!」
「だって、烏丸君、『えっちなビデオをいくつもってるか』ってクラスの子と話してた!」

烏丸は哲平の言葉に、あちゃーと片手で顔を押さえた。烏丸がしていた話は確かにそうだけれど、一般的な青少年が普通に話す話題であって。まさか哲平が聞いていただなんて思いもしなかった。

「ぼ、ぼく、えっちなビデオって、その時は英語のHのビデオなんだと思ってたんだけど、違うってわかったら、烏丸君しか思い付かなくて…。だって、烏丸君、あの時いちばんいっぱい持ってるって言ってたもん!」
「無駄に記憶力いいなおい!」

テンパるあまり思わずツッコンでしまうほどに烏丸は焦った。こんなことが総長の耳に入ったら、自分はどうなるかわからない。

「あ、あのさ、そういうことは恋人のそうちょ…王子様に聞いたほうがいいんじゃないかな〜、なんて…」
「…だめ。だって、だって、お、王子様、ぼくに、そんなことしないもん。だから、きっと王子様、やり方知らないんだよ!だから僕がお勉強して王子様に教えてあげないと…!」

決意をにじませた顔でガッツポーズをする哲平に、烏丸はうそだろ、と内心頭を抱えた。

あの総長がえっちの仕方を知らないだって?そんなわけないでしょうが!

そう叫びたいけれどできるはずもない。かといって、哲平を納得させるだけのうまい言い訳も思いつかない。
誰か助けてくれ!と心の叫びをあげた瞬間、正座をしていた哲平がすっくと立ち上がってプチプチと制服のボタンをはずし始めた。

「えっちって、裸にならないといけないんだよね!脱いだら教えてくれる!?」
「やめて!お願いやめて!」

普段の哲平なら、そんなことは絶対にしないだろう。だが、哲平はこの時ひどく焦っていた。

はやく。はやく、えっちの仕方を覚えないと。

「わかった!わかったから!ビデオ、ビデオ貸したげる!」

両手を伸ばし、必死に制止をかける烏丸の言葉に哲平は服を脱ぐ手をぴたりと止めた。

「俺の持ってるビデオでえっちの仕方が分かりやすく載ってるやつがあるから、それを貸したげる。それで勉強すればいいよ!ほら!」

烏丸はテレビの下の棚をあけ、一枚のDVDを差し出した。タイトルは、

『お兄さんが教えてあげる』

きれいなお兄さんが、かわいい男の子に裸でキスをしている写真が載ってあった。烏丸は、まさか自分がゲイビを人様に差し出す日がくるだなんて思いもしなかっただろう。

「ありがとう!烏丸君!ぼく、さっそくお勉強してくるね!」

烏丸に差し出されたDVDを手に取ると、胸にしっかりと抱きかかえペコペコと頭を下げて嬉々として哲平は部屋を出ていった。



哲平がいなくなってしばらく訪れた出来事に茫然としていた烏丸は、のろのろと動き出した。

「ほんと、勘弁してほしいよ…。無垢で無知な子の思い込みの暴走、恐るべし…ん?」

DVDを取り出すために開けた棚の扉を閉めようとして、パッケージが開けっ放しになっているDVDを見つけた。

ふたを閉じようと手に取って、DVD自体に書かれているタイトルを見てさぁっと血の気が引く。


「ま…、間違えたあああああ!!!」


烏丸の絶叫は、誰もいない部屋にわんわんと響き渡った。

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