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6

どうしてこうなっちゃったんだろう。ちょっと前まで、草壁ちゃんに触れられるとそれだけでうれしくて、体が熱くなって。ひどい事もされるけど、愛されてるんだって実感できたのに。

出て行っちゃったってことは、もう終わりってことなのかな。犬になれない俺は必要ないのかな。

はらはら、涙がずっと頬を伝うけど、拭うこともせずに裸でしゃがみこんだままぼーっとしてたら、がちゃりと扉が開く音が聞こえて俺のいるバスルームに誰かが歩いてきた。ぼんやりとしながら振り向くと、そこには草壁ちゃんがいた。あれ、出て行ったはずなのに。どうしたのかな。きちんと別れを告げに来たのかな。

「上村先輩。来て下さい。」

草壁ちゃんはしゃがみ込んだままの俺の手を引き立ち上がらせると、大きめのバスタオルでくるりと俺をくるんで、リビングに連れてきてテレビの前のソファに座らせた。そして、なにやらDVDを取り出すとそれをセットして再生し始めた。


『あ、あん、やぁ…!く、さかべ、ちゃ…!』

「…!」

画面に現れた画像と流れてくる音声に目を見開く。それは、俺と草壁ちゃんのえっちをしている映像だった。

「い、いや…!」
「先輩。お願い。よく見て。ヤッてるとこじゃなくて、先輩を抱いてる僕を見て。」
「い…」

ソファから降りて逃げようとする俺の手を掴んで自分の膝の間に座らせたかと思うと、ぎゅうと抱きしめて懇願する。その声が、あまりにも辛そうだったから俺は逃げそうになる自分を叱咤して恐る恐る画面を見た。

初めに目に入ったのが、情けない顔で泣き叫ぶ自分。背面座位で腕を後ろ手に縛られたまま草壁ちゃんに突き上げられてる。恥ずかしくて恥ずかしくて。思わず目を逸らしかけて、後ろに写る草壁ちゃんが目に入った。


「あ…」


そこにいた草壁ちゃんは、あの子と対峙していた時の草壁ちゃんじゃなかった。



恍惚として、ギラギラと欲望に濡れた目をしているけれど。
―――――――俺を、いつも見ている。俺に『好きだ』って言ってくれるときの、あの愛しいって気持ちに溢れた目だった。



画面の俺がきつい責めに泣き叫んで懇願している。それを、ひどく嬉しそうに愛おしそうに見ている。一枚のDVDが終わると、草壁ちゃんは次のDVDを再生し始めた。それも、俺とのえっちの画像。
それから何枚も何枚も見せられたけど、その全ての中の草壁ちゃんの目は、あの子に向けていた目は一切なく。いつも俺が見ている草壁ちゃんの目だった。



全ての再生が終わって、ぷつりと電源が切られると草壁ちゃんはソファに座る俺の足元に正座をして膝の上で握りしめる俺の手にそっと触れた。

「…上村先輩」

名前を呼ばれてぴくりと反応する。草壁ちゃんは俺の手を掴み、自分の頬にそっとあてた。

「誰に、何を言われたのか…大体想像できます。確かに、僕は過去にこの性癖で色んな人とそういうプレイをしてきました。でもね、先輩。…恋人と、犬は違うよ。僕は、先輩が好きで、大好きで。自分のプレイのために付き合ってるわけじゃないんだ。こんなにも、愛しくて、大事で、めちゃくちゃに泣かせて甘やかしたくなるのは、先輩だけなんだよ。犬としてじゃなくて…恋人として抱きたいって思ったのは、先輩だけなんだよ。」


悲しそうに微笑みながら、俺の手を愛おしそうに撫でてキスをする。その手が、唇が、微かに震えていた。

「僕、できることなら過去に行って…、ううん、生まれる前からやり直したい。先輩が嫌がるなら、怖がらせてしまうなら、嫌われてしまうくらいなら、こんな自分に生まれたくなかった…。」
「…っ!く、草壁ちゃ…」
「でもね、先輩。」

俺は草壁ちゃんの言葉を聞いて思わず身を乗り出した。だけど、立ち上がろうとした俺の肩を優しく押して草壁ちゃんがもう一度座らせる。

「僕は、僕として生まれたから…先輩に会えたんだよね。先輩に、好きだって言ってもらえたんだよね。だから、僕は僕に生まれてよかったんだってそう思える。例え…

例え、今、この瞬間、先輩に『別れてほしい』って言われたとしても、僕は大丈夫です。」


にこり、と。そう言って微笑む草壁ちゃんは、ものすごくきれいで。



俺は、自分が草壁ちゃんにやっと受け入れてもらえた日のことを思い出した。


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