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4

その日から、俺は草壁ちゃんとセックスできなくなってしまった。
そういう雰囲気になったときに、勝手に体が震えて止まらなくなってしまったのだ。

初めてそうなってしまった時、草壁ちゃんは何も言わず優しく笑ってただ俺を抱きしめてくれた。


その日から、草壁ちゃんは俺に体を求めてこない。きっと、何かを感じたんだろう。
普段、普通に話したり一緒にいたりするのはなんてことない。なのに、いざセックスをしようと考えるとどうしても俺は恐怖しかわいてこなかった。


そんな自分が情けなくて、苛立って、ひどく焦る。どうして、大好きな草壁ちゃんを拒否してしまうんだろう。
今は何も言わない草壁ちゃんが、どう思っているのかと考えるとものすごく怖い。このままできないままだったら…俺は草壁ちゃんに捨てられてしまうかもしれない。

そんな時だった。例のあの子に声をかけられたのは。

「上村さん、ですよね?お話があるんですけど」

にこりと顔は笑っているけど、その目が笑っていない。それどころか、憎しみを含んだ目の光りにたじろぐも俺は大人しくついて行った。



「あなたが、今のユキ様の犬なんですよね。改めまして初めまして。前にユキ様の犬でした新垣です。」

この間転校してきたんですよ、と一礼をして挨拶をするその子は、顔を上げるとじろじろと俺を品定めするかのようにつま先からてっぺんまで見てきた。

『犬』

そう言われて、初めてこの子と話をしていた時の草壁ちゃんの顔を思い出して足が震える。

「い、犬じゃ、ないです…。お、俺、草壁ちゃんの恋人で…」
「なに言ってるんですか?バカじゃないですか?」

俺が否定の言葉を口にすると、新垣くんは心底バカにしたように笑った。

「ユキ様の犬のくせに立場をわきまえないんだね。恋人だって?それは犬のことを言うんだよ。あなた、調教されてないの?ユキ様のしつけがまだ入ってないのかなあ」

その子の口から単語が出る度に、心に鉛が一つずつ落とされているような感覚に陥る。

調教。しつけ。

それは間違いなく、草壁ちゃんが行うセックスの最中に行う行為の事を言うんだろう。

「まあいいや。今日あなたを呼び出したのはですね。あなた、ユキ様の犬にしてもらってるくせに最近ユキ様をご満足させてないんじゃない?」

じろりと睨まれ思わず目を逸らす。その子の言葉にどきりとして、目を見ることができなかったから。
新垣君の言っている『満足』とは、多分セックスのことだ。どうしてこの子はそんなことまで知ってるんだろう。もしかして草壁ちゃんが話したのだろうか、と以前の俺なら絶対に考えたりしないことが頭に浮かんだ。何も返事をせずにただぐっと唇を噛む俺に、その子は大きなため息をついて頭をかいた。

「…ユキ様、こんな駄犬のどこがいいんだか…。ろくに体も使わせない、主人の望みも満足させられない犬なんて犬の意味ないじゃない。最近のユキ様、すごく疲れた顔してる。欲求不満の顔だよ。僕とヤッてる時も、僕が上手くご奉仕できない時とかよくそんな失望した顔してたもの。そんな顔させたくなくて必死に練習して、ユキ様にご満足いただけるようになったんだよ。
…それから、まあ色々あって…違うご主人様にお仕えするようになったんだけど、やっぱり僕はユキ様の犬だったときが一番幸せだった。だからさ…」



ピンポーン、と部屋のインターホンが鳴って俺はびくりとソファの上で体を跳ねさせた。立ち上がると足が震えているのが分かり、拳でがんがんと幾度か叩いてからゆっくりと玄関に向かう。がちゃり、と扉を開けてそこに立つ人物に心臓がばくばくと走った後のように激しく動き出す。

「…く、草壁ちゃん、いらっしゃい…」
「あ、はい…。」

あがって、と手で示すと草壁ちゃんは笑顔を作ってお邪魔します、とリビングに向かった。その笑顔が、ひどく無理をした笑顔なのに気付いていたけど俺は何も言わなかった。

「先輩、どうしたんですか?急に部屋に来てほしいって…。僕は二人きりで会えて嬉しいです、けど…」

リビングの真ん中で立ったまま俺を振り返り草壁ちゃんが苦笑いをする。それもそうだろう。セックスできなくなってから、俺が草壁ちゃんを部屋に誘うことはなかったから。会う時は草壁ちゃんの部屋、それもリビングだけ。お互い、それについて何も言わない。触れ合わない。それほど、俺たちの仲はぎくしゃくとしたものになってしまっていたんだ。

不安そうな目を向ける草壁ちゃんの手をおもむろに引いて、俺は草壁ちゃんをバスルームまで連れてきた。草壁ちゃんは何が何だかわからないって顔してる。それもそうだろう。草壁ちゃんをここに連れてくるのも久しぶりだ。二人きりになっても、そういう雰囲気を出さないように必死になっていたから。

脱衣所で素早く服を脱ぎ、次いで草壁ちゃんの服も脱がす。

「先輩…ッ!?」

俺の行動に草壁ちゃんは心底驚いた顔をしてた。それよりも俺は、久しぶりに見る草壁ちゃんの細い体を見てしくしくと胸が痛んだ。以前までなら、触れるだけでドキドキした胸。お腹、肩、腕、足。その全てが本当にきれいだった。



それでも、その体を見て恐怖が湧いてくる。


それを必死に振り払い、俺は草壁ちゃんの手を引いてバスルームに入った。


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