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2

それは、突然やってきた。


「ユキ様…!やっと見つけた…!」

草壁ちゃんと二人、生徒会室に向かおうとした俺たちの後ろから一人の小柄でかわいらしい男の子が走ってきて草壁ちゃんに声をかけた。顔を赤く染めてどこか興奮した面持ちの男の子が草壁ちゃんの事を熱のこもった目でじっと見ている。

なんだろう。なんだか、すごく嫌な感じ。

初めて見るその子なのに、俺はなんだかその子にいい印象を抱けなかった。
ちらりと草壁ちゃんを見ると、草壁ちゃんもなんだか怪訝な顔をしてその子を見ている。だけど、急に思い出したかのように目を見開いてその子に向かってにっこりと微笑んだ。

「…ああ、お久しぶりですね。一瞬誰かわからなかったですよ。こんなところで立ち話もなんですから、あちらで話しませんか?上村先輩、すみませんが会長たちに遅れると伝えててもらえますか?」
「え?あ、うん…」
「じゃあ行きましょうか」

そう言うと、草壁ちゃんはその子の腕を取り何だか強引に歩き出してその場から連れだって行ってしまった。


俺は、その時の草壁ちゃんの様子がどうしても気になってしまってやめとけばいいのにこっそり後をつけてしまったんだ。



二人は誰も来ない旧校舎の裏にいた。草壁ちゃんはこちらに背中を向けているのでその表情は見えないけど、なにやら漂う空気が怒ってる…?対して草壁ちゃんの前にいる男の子は、そんな空気を感じているのかいないのかなんだかうっとりとして草壁ちゃんを見つめていた。
そして、突然草壁ちゃんの足もとに跪いて、草壁ちゃんの靴を舐めたんだ。

「ああ、ユキ様…!お会いしとうございました…!この犬めは、あなたに会えなくなって、どれほど苦しんだか…!」

うっとりと眺めながら、必死になって草壁ちゃんの靴を舐める。
その光景と、その子のセリフに俺はひどく驚いた。

犬…?
今、あの子、自分のことを犬って言ったの?

靴をなめるその子を心底冷たい目で見つめる草壁ちゃんに思わずぶるりと身震いする。

「新垣。僕、君とはお終いだ、新しいご主人のところでうまくやりなって言ったよね?」
「はい、ユキ様。わたくしもユキ様のお言葉通り、新しい主人と幸せに暮らしておりました。ですが…」

――――新しいご主人。

それはつまり、その前は草壁ちゃんはこの子を犬として飼っていたってこと。
草壁ちゃんは、俺と本当の恋人同士になるときに過去の自分のことを話してくれた。SM嗜好のある草壁ちゃんは、そういうプレイをできる相手と楽しんでいたこと。確かにきちんと話してもらって、俺だって納得はしたはずだった。だけど。

「やはり、あなた以上のご主人様はおられません…!どうか今一度、私を犬として飼ってください!」

草壁ちゃんの答えを聞く前に、俺はその場から駆けだしてしまった。



「はあ、はあ…」

たどり着いた生徒会室の前で、走って荒くなった息を整える。こんな状態で皆の前に出るわけにはいかないので壁に背をつけ息が落ち着くのを待つ。


納得は、したつもりだった。過去は過去、今は今。昔に草壁ちゃんが自分の嗜好を満足させるために他の誰かとそういうプレイをしていたって、それは仕方がないことなんだって。


でも、聞くのと目の当たりにするのとではこんなにも違うんだ。


冷たい目の草壁ちゃん。なのに、そんな目で見られながらあのひどく恍惚とした相手の子の表情。


俺が見たこともなくて身震いするほどの恐ろしい目は、あの子にとっては普通のことなんだ。


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