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5

「…どういうことだよ、鮎太」
「あ…」

久しぶりに見る悟は、一目でわかるほど怒っていた。こんなに怒っている悟を見るのは、初めてかも知れない。怖くて、何を言っていいのかわからなくて目をさまよわせていると悟が俺の腕を引っ張って教室の床に押し倒された。

「いっ…!」
「…どういうことだって聞いてんだよ!なんで、なんで俺から逃げた!俺を避けた!」

両腕を床にきつく押しつけながら、泣きそうに顔を歪めて俺を責める。

「なんで、って…、お、おれ、お前から、もう離れようかと思って。だって、おかしいだろ…?いつまでもべったりで、あんな、ことまで…。」
「は…?」

悟が、心底わからない、と言うように眉を寄せる。ああ、全部言わなきゃだめなのか。
悟、わかってくれよ。俺はもうお前に何の感情もなしに触れられるのが辛いんだ。悲しくて、苦しくて、息もできないんだ。
逃げ回っていたつけが回ってきたのか、と覚悟を決めて言葉を紡ごうとした瞬間。


「…恋人同士がべったりくっついて、何が悪いってんだよ…?」

悟の口から、とんでもない言葉が発せられた。



「…は…?」
「くそ…!なんでだよ…!俺と、今さら別れるってのかよ…!?他に好きな奴でもできたってのか!?あんなに、あんなに俺の事好きだって言ってくれたじゃねえか…!なあ鮎太…!」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って、え?あれ?」

俺を抱きしめて早口でまくしたてる悟の背中を叩く。
今、悟は何て言った?

恋人?
別れる?
あんなに好きだって、言った…!?

「ちょっと、悟!!」

大声でぐいと押すと、ようやく悟は顔を上げて俺を見た。ひどく泣きそうな顔をしている。俺だって泣きそうだ。

「…誰が、誰を好きだって言ったって…?」


きょとんとして悟を見つめると、悟は泣きそうな顔を一転ひどく驚いた顔をした。

「鮎太、何言ってんの。…もしかして、覚えて…?――――ああクソ!!そう言うことかよ!!」

叫んだきり、悟はがくんと頭を項垂れてしまった。さっぱりわからない。一体何がどうだっていうんだろう。



「いつも言ってんだろうが!お互い、好きだって!!」



そして、今度は俺が驚いて目を見開く番だった。


「は…!?」
「お前なあ…、ヤッてる最中、何度も何度も好きだって言い合ってんのにそりゃないよ…。ぶっ飛んでんな、とは思ったけど、まさか前後の記憶までぶっ飛んでるとは…」


勘弁してくれよ、と疲れたように言って俺を抱きしめる悟。俺はと言うと、思考が完全に置いてけぼりになっていた。
お互い、言い合って?ヤッてる最中に!?

「え、ええええええええ…!」

悟の話にようやく思考が追い付いた俺は、間抜けな叫びを上げてしまった。



それから、俺の家に帰ってから悟に話を聞いた。初めてヤッたあの夏の日。あんな言い方をしたけれど、悟はずっとずっと俺の事が好きで。流されるままの関係になるのが嫌で、きちんと俺に告白をしていたらしい。らしいと言うのは、俺に記憶がないから。悟が俺に告白をしたのは、俺が悟に揺さぶられている最中で。確かに、初めてだってのにあまりの気持ちよさに頭が真っ白になったのは覚えている。
事が終わってまどろむ中、俺は悟に何度も何度も『俺も好き』と告白していたらしい。


それから、俺たちは抱き合うたびに何度も何度も『好きだ』と言い合う。記憶がないけど。


悟は、お互い思いも通じ合って晴れて恋人同士になれて幸せ絶頂の中、意味も分からず急に俺に避けられ始めて何が何だか分からなくなっていたそうだ。


だから、俺は正直に今まで思っていたこととこの間の問いかけについて話をした。自分の存在が悟にとってなんなのかをはっきりさせたかったこと、その答えで離れようと思ったこと。

「お前が俺にとってどんな存在か、みたいなこと急に聞いて来るから恥かしくって、恋人同士だろって今さら改めて言わなくてもいいだろって思ってああ言ったんだけど、記憶にないならそう思われてもしょうがないよな…。」


俺の話を聞いて、悟はごめん、と俺の頭を自分の肩に引き寄せ抱きしめてくれた。
その瞬間に、俺は今まで張りつめていたものがぷつんと切れたような気がして、気が付けば涙を流していた。

「ごめ…、さと、悟…、ごめ、なさ…」


悟は、きちんと俺を愛してくれていた。その事実に、悟に愛されていることに気付けなかった自分に情けなさがこみあげて涙が溢れて止まらない。

「いいよ。俺も、悪い。最中じゃなくて、普段からも言ってやればこんな誤解やすれ違いなんて起こらなかったんだよな。鮎太、好きだよ。お前は俺の、大事な幼馴染だって言っただろ?だから、もう泣くな。ちゃんと言わなくてごめんな。」


愛してる、とキスをくれた悟に、俺も、と泣きながら抱き着いてキスをした。

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