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2

それから、俺と悟の関係がなんら変わったわけではない。ただ、夏の暑い日、悟がエアコンの温度を下げるとそれが合図かのように俺たちは重なり合う。

特別な言葉があるわけでもない。

それはまるで遊びの延長であるかのように自然に、季節が移り変わった今でも続いていた。


こういうのを世間ではなんと言ったろうか。恐らく正しいものではないし悟にとってもなんの特別な意味もない行為なのだろう。
それでも、悟が好きな俺は悟が何も言わないのをいいことに自分からはその事をきちんと聞くことができない。飽きるまででもいいから、繋がれていたいのだ。



「ねえ、麻生くんと別れてよ」


そんな風にのらりくらりと曖昧な関係を続いていた俺の前に、一人のかわいらしい男の子が現れた。確か悟のクラスメートで、最近よく悟といるのを見かける。
幾度か悟と話をしているのを、ものすごい目で見られていた。

「別れるもなにも、俺たち別につきあってるわけじゃないんだけど」

俺の言葉を聞いたその子が、驚いたように目を見開いた。それから、心底忌々しい、とでもいうような視線で俺を睨みつける。

「じゃあ麻生君から離れてよ。君がいると邪魔なの。僕、麻生君が好きなんだよ。なのに、告白して付き合ってほしいって言っても『あゆといる時間がなくなるのはイヤだから無理』とか言われるんだから!」


その子の話に驚いて、今度は俺の目が点になった。悟め、なんて断り方をしやがんだ。でも、俺だって悟から離れたくなんかない。付き合ってるわけでも、好きだと思われてるわけでもない。こんな関係でも、幼なじみとしてなら傍にいられるんだから、その権利までなくしたくない。

「…悟は、ただの幼馴染、だけど…、俺の、大事な友達、だ。と…もだち、と、いて、何が悪いんだよ。」
「ただの幼馴染…ね。」

腕を組んだまま、フンと鼻を鳴らして俺を見下す。

「友達ならさ、大事な友達に恋人ができるのを邪魔していいわけ?わかったらさっさと離れてよね」

…そいつの言葉は、本当にもっともで。俺はそれ以上何も言うことができなかった。黙って俯いてしまった俺に捨て台詞を吐いて、その子はいなくなった。一人呼び出し場所に残された俺は、その子の言葉を何度も何度も反芻していた。



結果どうしたかと言うと、俺は悟の傍から離れることはできなかった。悟の誘いを断ろうとはした。でも、やっぱり悟の顔を見てしまうと決心が鈍ってしまって。自分から言い出して、この関係が崩れてしまうのを恐れている醜い気持ちの俺は、あの子に言われた言葉に罪悪感を感じながらも悟に本気の子ができるまでは、あいつから『もうやめる』と言われるまでは流されていたかった。


「あゆ、どうかしたか?」


ある日の放課後、二人でなんとなく教室に残りたわいのない会話をしていると悟が俺の顔をじっとのぞき込んできた。

「…どうか、って?」
「いや、なんか元気ない感じだから…。ここ数日ずっとそうだったから気になってさ」

ここ数日とは、きっと悟を好きだというあの子に呼び出されてから今までのことだろう。自分では普通にしていたつもりなのに、そんな些細な変化に気付いてくれたんだ。

「なんにもないよ。最近寒くなってきたから風邪引いたのかな」
「そっか。…もしなんかあったら言えよ。鮎太は大事な幼なじみなんだからな。」


『幼なじみ』


その言葉に、俺は先ほどの幸せな気持ちがしぼんでいくのがわかった。
悟にとって、俺の位置づけは変わらない。それを望んだのは俺のはずなのに、いざ突きつけられるとこんなにも心をえぐるものなのか。
俯いたまま、ふ、と自嘲気味な笑みをもらすと悟がゆっくりと顔を近づけ、俺の首筋に噛みついた。ぴり、と軽い痛みが走り、その後ついばむようにはまれ、体が小さく跳ねる。

「…おい、さと…」
「…なんか、ムラムラしてきた…」

やめろ、と突っぱねる腕を逆に取られ、そのまま教室の床に倒される。

「こんな時間もう誰もいねえって」

オレンジに染まった笑顔に、目を細めてそのままゆっくりと閉じる。俺は結局悟に甘い。惚れた弱み、というものだろう。誰もいない教室で、声を押し殺して俺は抱かれながら啼いて、泣いた。

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