×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




5

「…っな」
「あんたに広大の何がわかる。広大が今泣きそうで助けてほしいって全身で訴えているのも気付かないで何が『お前のため』だ」


ぎゅう、と強く自分の肩を抱く祐輔を見上げ、広大はじくりと大きく胸がしみるように痛んだ。
祐輔は、松方を睨みつけた後視線を広大に移して怒り一色だったその目に愛しさを滲ませる。

「広大。よく頑張ったね。いいんだよ、もう」

祐輔の言葉に、広大の目にじわりと涙が浮かぶ。我慢しなきゃ、と思うのに広大の体はその意志に反して震える手をあげ、祐輔の胸元をぎゅうの握り締めてぽろぽろととうとう大きな涙をこぼし始めた。

「ゆう、ゆう…」

涙を流しながら祐輔を呼ぶことだけを繰り返し、じっと見つめる広大の頭を祐輔が優しく撫でる。

そんな二人を見ていた松方が悔しそうに口を噛み、祐輔の目の前まで歩み寄ってきた。

「た、田上!藤井から離れろ!いいか、お前はまだ学生だ!自分の事だけやってればいいんだ!そ、それにな、藤井がお前ばっかり頼るようになって一人で何もできない奴になったらどうするんだ?藤井にはな、もっと自主性を持たせないとだめだ!そしてそれは学生のお前の仕事じゃない、教師である俺の仕事だ!」

さも自分が正しい、と言わんばかりに声を張り上げ広大の肩を抱く裕輔を批判する。裕輔は自分を見下すように見る松方に一際冷たい視線を向けた。

「広大は何もできないわけじゃない」

まっすぐに見つめきっぱりと言い切る裕輔に、松方は一瞬怯んでしまう。

「な、なにを…!じ、実際藤井はドジばっかりじゃないか!」
「…あんたは何を見てたんだ?広大は、確かにドジなところがある。でも、ドジだから=何もできないの図式は成り立たないはずだ。広大は、ドジだけどそれをもう一度取り返そうと自分でできる力で一生懸命やり直すことだってできる。あんたが見てきた中で、広大は初めから人に頼っていたか?自分でしようと努力のかけらもしなかったか?
俺は、広大のすることを否定して自分の思うとおりにさせていたか?」


裕輔の言葉に、松方はぐっと黙ってしまった。確かに、言われてみれば広大はドジだからと言って初めから何もしようとせずに人に頼ることなどはしなかった。悩んで考えて、どうしようもなくなった時にだけ助けを求めてくる。そして、自分が見る限り田上は広大を助けるがそれはあくまで手助けの範囲。広大が、できるだけのことはやれるようにと手を貸していた。

「…確かに俺はただの学生で、社会的地位も無ければなんの力もない。あんたの言うように、自分の事だけをやっていればいいのかもしれない。それでも、」

そこまで言うと、裕輔は自分の胸元にしがみつく広大を両手で優しく抱きしめた。



「困っている人がいれば助けるのは教師だけでなく子供だろうが大人だろうが一緒。…それがかわいい恋人なら、なおさらの事だろう?」


そう言って、抱きしめた広大のおでこに優しくキスを落とした。



「…っ、こ、い、びと…」

松方はそれを聞いて一瞬にして顔から血の気を引く。あからさまにショックを受けたような顔をしている松方を見て広大は泣きそうな顔で首を傾げた。それから、恐る恐る裕輔の方へと視線を上げる。
自分を不安げに見上げる広大を見て、裕輔はにこりと微笑んだ後もう一度松方に顔を戻す。


「広大が俺を頼って、俺がいないとダメになるのはこちらだって望むところだ。一生、喜んで面倒を見るよ。」


そう言って広大の肩を抱き、松方を振り返ることなく準備室を後にした。

[ 30/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top