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3

その日、寮の部屋でいつものように風呂から上がると祐輔がドライヤーを持ってソファーで待っていた。二人は同室ではないのだが、広大が一人で眠れないため裕輔は広大が眠りにつくまで広大の部屋で広大の世話を焼く。広大の本来の同室者も、それを受け入れむしろ二人のほのぼのを間近で見れることに喜んでいる。時には気を利かせて二人きりにしてくれたりもするのだ。
今日も、同室者は自分の彼氏の所に行くと言って席を外してくれていた。
広大はいつものように、祐輔の足の間に座り、大人しくドライヤーの風を受ける。


「…広大、何かあった?」

ドライヤーを当てながら、祐輔が尋ねる。広大は一際わかりやすくびくりと体をはねさせた。

祐輔は、自分の足の間に座る前に一瞬広大が顔を強ばらせたのに気がついていたのだ。
広大は後ろを振り返りじっと祐輔を見つめる。

「ん?」

優しく微笑み、ちょっと心配そうに自分を見つめる祐輔に胸がきゅっとなる。

『田上だってやりたいことができない』

先生の言葉を思い出して泣きそうになる。
優しく、自分の髪をなでる祐輔の手。
この手に、もう縋ってはいけないのだ。

「…なんでも、ないです。あ、ぼ、僕、自分でドライヤーやるです!」

泣きそうなのを必死にこらえ、広大は裕輔からドライヤーを取り上げた。突然の広大の行動に裕輔は驚いて目を丸くしたが、自分でドライヤーを当てだした広大を無言でじっと見つめていた。

「ほ、ほら、自分でできたです!」

お世辞にもきちんととは言えないが、広大は何とか自分で髪を乾かし終えて裕輔を見上げた。

…おかしい。いつもの、広大じゃない。

広大の様子に気付いた裕輔は、そっと広大の頬を撫でる。広大は裕輔を見上げたまま、びくりと一瞬体を竦ませたが大人しく裕輔の手を受け入れていた。

「…広大。何があったの?」
「え…?」

頬を撫でながら心配そうに自分を見つめる裕輔の言葉にどきりと心臓が跳ねる。
どうして?うまくできていたはずなのに、裕輔は何か勘付いてしまったのだろうか。

言えない。裕輔には、聞けるはずもない。先生に言われたことを裕輔に言ったとしたら、優しい裕輔はきっと
『そんなことはない』
と言うだろう。例え、本当は自分が重荷になっていたとしても。裕輔は何でも自分を優先してくれる。自分の事よりも広大の事を考えて行動してくれる。でも、先生の言うとおりならもうそれに甘えるわけにはいかないのだ。

『自分で何でもやろうとすることはいいことだけど、ほんの少し広大のお手伝いをさせてもらえたらうれしい』

そう言って告白してくれた裕輔に、できるだけ自分の事は自分でやろうと頑張ってきたけれど。できるようになったと思っていたけれど。
先生から見て、人から見て自分は知らず今まで以上に本当は恋人に頼りきりになってしまっていたのだろう。

ゆうの、重荷になりたくないです…


「なんでもないですよ」


思わず縋ってしまいそうになる自分を必死に押し殺し、広大はにこりと微笑んで裕輔にそう言った。

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