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3

どうやって帰ったのかなんて覚えてない。気が付いたら俺は自分のベッドの上にいて、お母さんが呼ぶ声で自分がずっと天井を見ていたことに気が付いた。窓の外は真っ暗。俺、どれくらい天井見てたのかなあ。

リビングに行くと珍しくお父さんが帰ってきてた。家族三人で囲む食卓は久しぶり。楽しいはずなのに、俺は二人の話にあんまりうまく返せなかった。

「…なあ、太一郎。話があるんだが…」

食後のコーヒーをお母さんに入れてもらって飲んでいると、お父さんが急に何だか真剣な顔をしてきた。なんだろう。やな予感がする。

「お父さんな。遠い所にお仕事場所変わるんだよ。それで、だな。お母さんはどっちでもいいって言ってくれてるんだが、太一郎は高校があるだろう。どうだろう。転校、してもいいか?それとも、今の学校のままがいいか?お父さんは、できればついてきてもらいたい。家族離れ離れってのは寂しいからな。」

てんきん、って言うんだって。お父さん、遠い所に行っちゃうんだ。どれくらい遠いの?どれくらいの間?今の学校のお友達とも離れ離れ?仲良くしてくれてるチームの皆さんとも、もう会えない?



…そーちょー…、とも会えなくなっちゃう…?



頭の中にそーちょーのいつもの優しい笑顔が浮かんで、じわりと涙が浮かぶ。離れたくないよ。そーちょー、大好きだもん。

「俺、ここに…」

残る、と言いかけてまるでフラッシュバックの様に今日見たそーちょーの怒った顔が浮かんだ。それから、女の人。
そーちょー、最近ずっと冷たかった。俺に「帰れ」って怒った。一回も俺の方なんて見てくれなかった。俺以外の人の肩を抱いてた。それはつまり、そういうこと。そうだ。そーちょー、もう俺なんていらないんだ。


ぎゅ、と唇を噛んで俯く。

「…いく。」

そーちょーが、俺をいらないって言うなら。やっぱり女の人がいいって言うなら。
俺は、そーちょーのために身を引かなきゃ。



それから、俺はそーちょーを避けに避けまくった。と言っても、そーちょーが俺を避けてるから意味ないんだけど。チームの皆にも会わないように必死に小さく体を隠しながら学園生活を送る。

お別れは、ちゃんと言わないと。でもでも、まだ同じ学校にいる間には言えないよ。俺のわがままだけど、完全に離れちゃうまでは、この学校にいるあと少しの間だけでいいから、会えなくても話せなくても恋人でいたいんだ。


転校するっていうのは、誰にも言わない。言ってもしそーちょーの耳に入って、『ちょうどよかった。別れようぜ』って言われちゃったりしたら俺きっと死んじゃうもん。


そうしてチームの皆にも会わず、そーちょーにも会わず日にちはこくこくと過ぎて行き、二週間ほどたったある日。俺は転校の話をきちんとするために職員室にいた。先生と、引っ越しする場所から一番近いところはどこかって教えてもらったりして、話をして職員室から出ると、急に横から腕を引っ張られた。



「たいっちゃん!」
「えっ?あ、アツせんぱい?」

アツ先輩は、そーちょーのチームの副総長さんだ。俺がそーちょーと恋人になれたのは、この人が考案してくれた使いっパシリゲームのおかげなんだよね。そう言えば、いつもそーちょーの近くにいるのにここ最近アツせんぱい見かけなかった。確か、最後に会ったのはそーちょーが七時までしか一緒にいれなくなった日で、そーちょーにお使い頼まれたんだあって言ってたっけ。
お使い終わって帰ってきたのかな。あれ?なんか、お顔にでっかいばんそーこがある…。

「アツせんぱい、お顔どうしたの?」
「ああ、これ?ドジ踏んじゃってさ。それのせいでヒロにもチームにも迷惑かけちゃって…って、それより今の話!」

ほっぺのばんそーこを触って苦笑いしたアツ先輩は、ハッと気が付いたように目を大きくして俺の腕を掴んできた。


「たいっちゃん!転校するって本当なの!?」


どうやら、職員室にアツ先輩はいたらしくて俺と先生の話を聞いてたんだって。それで、職員室で問い詰めるわけにもいかないから俺が出てくるのをここで待ってたそうだ。

「う、うん。お父さんのお仕事で、一緒に行くって…」
「…ヒロはそれ、知ってるの?」


アツ先輩の問いかけにゆるゆると首を振ればアツ先輩がなんで…と小さくつぶやいた。


「ヒロと、別れるつもりなの?」
「…」

こくん、と頷くとアツ先輩が何やら必死の形相で俺の両肩を掴んだ。

「なんで!なんでだよ、たいっちゃん!ヒロは…ヒロが、どんだけ君の事…!そんなの、」


「認めるわけねえだろうが」


がくがくと揺さぶられ、俯いた俺の頭に凛と響く声。恐る恐る顔を上げると、そこには鬼の形相をしたそーちょーがいた。

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