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「たいち、悪いな。今日から一緒に帰れねえ」
俺にとって死刑宣告にも似た言葉を言われたのは、それから三日後。いつものようにそーちょーに会いに教室に行ったらそう言われた。
「あ…、わ、わか、った…」
どうしてって聞いて、もしトイレで聞いた話のように『他の女と会うから』って言われたらどうしようって、怖くて怖くて理由は聞けなかった。こくんと頷くと、そーちょーはぽんとだけ頭を軽くたたいてすぐに誰かに呼ばれてそっちに行っちゃった。
誰かと話すそーちょーの背中をちょっとだけ見つめて、くるりと回れ右して自分の教室に帰る。机に突っ伏して腕の中に顔を埋めた。
そーちょー、頭一回しか撫でてくれなかった。すぐに俺から目をそらした。振り返ってもくれなかった。
お付き合いするようになってから今まで、そーちょーにそんな態度をとられたことがなくってすごく悲しくなった。
でもでも、たまたまかもしれないし。
そうプラスに考えた俺の思いは、それから粉々に打ち砕かれちゃった。
一緒に帰れなくなった日から、そーちょーは俺に会いにきてくれなくなった。俺が教室に行ってもいなかったり、いても目も合わさずにすぐに誰かに呼ばれてそっちに行っちゃう。毎日くれてた電話もメールも、全然くれなくなって、俺からかけてもメールしても繋がらなかったり返事がなかったりした。
ある日、本屋に寄ってちょっと遅くなった時間にいつものようにとぼとぼ一人で帰ってると喫茶店の前でそーちょーを見つけた。
そーちょー、そーちょーだ!嬉しくって、思わず駆け寄った。
「そーちょー!」
「あ?…たいち、こんな所で何してやがる」
久しぶりにお外で会えたのが嬉しくて抱きつこうとしたんだけど、振り返って俺を見た瞬間にものすごく怖い顔をしたそーちょーにビビってぴたりと足を止めてしまった。
「あ、あの、本屋に…」
「一人でんなとこにこんな時間までうろうろしてんじゃねえ!とっとと帰れ!」
ものすごく怒って怒鳴られて、俺はショックを受けて固まってしまった。どうして?どうしてそんなに怒るの?
「総長!」
「あ?…チッ、いいかたいち!すぐにまっすぐ家に帰れ、わかったな!」
それだけ言うと、そーちょーは自分を呼んだ人の方に走っていってしまった。ずっと、ずっと俺の方なんてちらりとも振り返りもせずにその人としゃべってる。
俺は、俺だけ、そーちょーの背中をずっと見つめてて。
そーちょー、どうして?どうして、怒ったの?どうして、こっちを見てくれないの?
悲しくて、悲しくて。それでもずっとそこにいるわけにもいかなくて。だって、そーちょーが帰れって言った。そーちょーの言うことは絶対なんだもん。これ以上そーちょーを怒らせたくない。…嫌われたくない。
溢れそうになる涙をぐっとこらえて足の向きを変えてそーちょーに背中を向ける。一歩歩いて、一度だけ。最後に、こっちを向いてくれないかなって思ってちらりとだけ振り返った。
…そーちょーは、見知らぬ女の人の肩を抱いていた。
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