感想 


60.王、沈黙の時
 2011/08/21 - 辛口感想
ジャンル:異世界ファンタジー
長さ:中編(完結)


いいかげんなあらすじ:
豊かな大国・リンドーラ。
永遠を生きるリンドーラ王・メルヴィトゼンは、孤独な日々を過ごしていた。
ある日、『世界機構』からの使者であり、友人でもあるアンヴァルク=リアスに、唐突すぎる死を予告され……。


 独特な雰囲気だけれど取っつきやすい
 文章量に対して説明が多すぎる
 世界の様子をイメージしづらい
 ストーリーの流れが悪い





同人誌に掲載された外伝小説とのことで、本編の補足と思しき設定やエピソードが散在しています。
本編を読んでいる人や、本編を読んでいなくても同人誌を買ってしまうくらい設定に興味のある人にとっては、かなり楽しめる内容ではないでしょうか。

しかし、私のように本編を読んでいなかったり、設定にも関心がない人間は、ページを開こうともしない作品だと思います。
完全に作品の対象読者からはずれる読み手の感想であるということを踏まえて、今回の感想文に目を通していただければ幸いです。



設定は神話風、文明は中世風、しかし世界の根本はSF風……と、3つの要素が混在している点が、とても特徴的な作品です。
同時に、これら3つの要素が同時に存在することによって、独特の雰囲気を創りだしています。

しかし、全体的に説明的で、読んでいて疲れました。
また、頻繁に挟まれる説明によって物語が分断され、ストーリーを見失ってしまいがちでした。


 独特な雰囲気だけれど取っつきやすい

神話風、中世風、SF風と、3つの異なる要素が同時に存在している点が目新しく、新鮮な印象を受けました。
また、ひとつひとつの要素はそこまで尖っていないので、意外と読みやすかったです。

形容詞をこれでもかと重ねる文体も、ずっしりと重く硬質な作風によく合っています。
平易な単語が使われており、形容詞の並べ方も整っているため、一文が長い割に読みやすかったです。

永遠の命を持つ「偉大な王」であるメルヴィトゼンの最期を描いた物語ですが、
彼の人間的な面に焦点が当てられているので、親しみやすい主題でもあります。

そのため、独特な雰囲気が漂っていますが、案外取っつきやすい作品なのではないでしょうか。


 文章量に対して説明が多すぎる

クセがある割に文章は読みやすく、ストーリーもシンプルでわかりやすいのですが、文章量に対して説明が多すぎて頭が疲れました。
「アンヴァルク」や「世界機構」のとても丁寧な説明から察するに、本編の補足的な面が強い作品だと思うのですが、情報を詰めこみすぎているような印象を受けました。

また、本編未読者に気をつかって説明を挿入した結果、情報過多になってしまった可能性も考えられます。
物語の背景に関する事柄(アシディアがゼーレと融合した件など)についてあれこれ書かれても、知らない専門用語や地名が多くて、説明を飲み込むのが大変でした。
そのため、もう少し情報が取捨選択してあったほうが、本編未読者にも親切だったのではないでしょうか。


 世界の様子をイメージしづらい

説明が丁寧なので、作中で書かれている設定については大体把握できました。
しかし、説明に描写が伴っていないせいで、どんな世界なのかイメージしづらかったです。
まるで、写真や図のない資料を読んでいるような印象でした。

ヴェーネン(一般市民)の生活、アシディアの恐怖政治の模様、リンドーラ国内の様子などが具体的に描かれていないため、
設定がストーリーや人物にうまく馴染んでいませんでした。
物語の各要素が読んでいてうまく結びつかなかったせいで、世界の様子が頭に浮かんでこなかったのだと考えられます。


 ストーリーの流れが悪い

説明の比率が高く、また、説明がストーリーに融合していなかったため、説明がストーリーの邪魔をしていました。
そのため、ストーリーを見失いやすく、流れが悪かったです。

文字数の配分が説明に偏りすぎているせいか、描写不足な箇所もありました。

まず、メルヴィトゼンの「偉大な王」である面があまり描かれていない点について気になりました。
そのため、彼のの意外な面である「人間らしさ」を、生かしきれていない印象を受けたのです。

また、内面描写が足りない場面もありました。
たとえば、第二章でメルヴィトゼンが死への恐怖を克服しますが、その過程が十分に描かれていないため、物語についていけない面がありました。


「説明が多い」とぐちぐち書き連ねましたが、ストーリーそのものには興味津々でした。
SF小説でしばし取り上げられる、「人工知能と人間とのあいだに本当の友情は成立するのか」という話題が好きだからです。

心がない「アンヴァルク」であるリアスに友情を求めるメルヴィトゼンの物語は、とても魅力的でした。
リアスに感情があることを微妙に期待させるような物語の締め方も、余韻があって気に入りました。

個人的には、本編をある程度読み進めてから、着手することをオススメする作品です。


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