ポッキーの日2014 ※学パロ!
「ん、」
かわいい後輩が、ポッキーをくわえて目を閉じた。
なぜか肩をしっかり掴まれている。痛い。
「あのねえ沖田くん。いろいろツッコみたいことあるんだけど、とりあえずポッキーのチョイスが露骨すぎると思うよ。下心見え見えなのって、やらしーから嫌だなあ…」
「先輩ひどい!僕、下心なんかないのに!一番チョコの割合多いのがこのポッキーミディってだけなのに!ポッキーミディおいしい!」
沖田くんはくわえていたやたら短いポッキーを食べてしまうと、抗議しながら続けて二本食べた。
「…うん、抗議するかポッキー食べるかどっちかにしようね」
「先輩先輩、今度こそ!」
沖田くんは、もう一度同じ種類のポッキーをくわえた。だからそれ短いってば。
「いや今度こそじゃないよ。やらないよ。ほとんどくわえるって本当露骨だな」
「…だめ?」
子犬みたいな表情とはうらはらに、肩を掴む指が食い込んでくる。とても痛い。
「かわいい顔したってだーめ。手離して」
「やだやだ!先輩ポッキーゲームしよう!」
「しない!ほらポッキーあげるから離れて」
「ポッキーに秘密の愛のメッセージを仕込んでるんですか?先輩ったら奥手だなー!」
「素晴らしくポジティブシンキングだな君は…そんなんじゃないよ」
「えー…」
「…あからさまにがっかりしないでよ」
「だって僕先輩のこと好きなんだもん」
「わたしも沖田くんのこと好きだよ。かわいい後輩だと思ってる」
「………先輩、騙されたと思ってポッキーゲームしません?」
「ええ?なんで?やだよ」
「ねー、お願いっ!一回だけ!一回だけですから!ね!ポッキーも普通のにするし!」
「………や、」
「嫌だと言ったって、ポッキーゲームするまで帰しませんから」
拒否権なしかよ!
逃げようにも手首をしっかり掴まれている。びくともしない。…あれー?沖田くんってこんなに力強かったっけ…?
腹をくくるしかないらしい。
「…わ、わかった。くわえるとこまでならいいよ」
「本当!?わーい!」
まともな長さのポッキーをくわえた沖田くんが、とても嬉しそうに近付いてくる。思わず後ずさると壁にかかとがついた。や、やべー!ほんとに逃げられない!
足の間に足を入れられていよいよ逃げるのは困難になってしまった。
恐る恐る彼の顔を見上げると、にっこりこちらを見下ろしていた。威圧感…。
「…あの、」
「逃がしませんよ」
やばいやばいやばいやばい
「ほ、ほんとにくわえるところまでだから!それ以上しないから!それ以上したら絶交だからね!」
「はいはい、わかりました!先輩、くわえて」
言いながら両腕がわたしの顔の横についた。こ、これは巷で話題の壁ドンなのでは…!
心の準備ができていないわたしの唇に、早くしろと言いたげにポッキーの端が当たっている。
「…………」
せいぜい十センチくらいしかないポッキーの、片側をすでに美形がくわえていると、もう片側をくわえるのは不可能に近い。
「…………」
「…………」
沖田くんの、視線が痛い。
顔は見られないけどなんとなくわかる。
意を決して少し口を開けると、くわえようとするより先に唇に当たっていたポッキーが入ってきた。なんだこいつポッキーゲームのプロか?
平静を取り戻して、少し彼の顔を見上げた。それがよくなかった。
睫毛の一本一本の形までわかる距離で、目の前の美形は優しく笑っていた。
「…!」
思わずどぎまぎして目を逸らすと、ぽきんと軽い音がして、ポッキーが折れた。
「ふふ、言いつけ通りくわえるとこまでしかしなかったでしょ」
なぜか得意げな沖田くんを直視できないまま、頷いた。
「先輩、どきどきした?」
後輩は余裕たっぷりな口ぶりで言って、わたしがくわえたままのポッキーを引っこ抜いて食べた。
か、間接キス……!
「顔あかーいかわいいー」
「………」
きゃっきゃっとからかう声が聞こえるが、それどころではない。
間近で美形の笑顔を見てしまったせいか動悸が治まらない。
「これで先輩が、僕のことを好きになってくれたらいいのに」
気付いたときには彼の胸に頭を押しつけられていた。
震える指がわたしの髪を撫でる。
「な、なに…からかわないでよ…」
とりあえず口にした反論は自分でもびっくりするほど弱々しかった。
「少しでもどきどきしたなら、僕のこと、後輩じゃなくて男として見てくださいよ…」
「…………」
押しつけられた胸元から、とても速い動悸の音が聞こえる。
知らなかった、沖田くんがわたしのことを本当に好いてくれてるってこと。
からかわれてるだけだと思ってた。
どきどきしてるときに、そんな風に、いつもと違うところを見せられたりしたら、好きになっちゃうじゃない。
沖田くんずるいよ。
20141113
あなたもわたしもオッキー!
ポッキーの日は実はオッキーの日だと思います。
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