幕恋ワンライ4


辺りには熱気が充満している。それから、木刀同士がぶつかる音が響いている。踏み込む足音と、気合いの入った雄叫びも。
剣道部の練習風景と、同じようで違う光景。
なんとなく迫力がある気がする。
これが、命を懸けて剣を振るう人の稽古なんだ。実感すると、こんな練習に混ざっていることが嬉しくてたまらなくなる。
なんて貴重な体験なんだろう。これでわたしはもっと強く…。

そんな風に驕ったからか、気が散っていたからか、はたまた実力差か。
頭がぐらぐらするほどの強烈な面を打たれてしまった。
稽古は強制終了。

「沖田さん強ーい…」

「君が弱すぎるんですよ」

見上げると、こっちは汗だくなのに、沖田さんはほとんど汗をかいていなかった。
なんでこの人、こんなに暑い道場でこんな顔してられるの…!?

「沖田さんが強すぎるんだと思います」

「言ったでしょう。僕は強いって」

「それはそうですけど…ここまでだなんて…」

「何?なめてたんですか?」

ちょっと責めるような口調。
目尻も少しだけ上がっているような。
なんかいつもと違うんだよなあ…。

「なめてませんよ…ていうか沖田さんって、稽古のときちょっといけずですよね。今もう稽古終わりましたけど」

「いけず?僕が?心外ですね」

「稽古荒いしなんか短気だし…もうちょっと優しくしてくれたって…」

「稽古で優しくしてどうするんですか。そうやって甘やかした人は、いざ戦になったとき真っ先に死んでしまうじゃないですか」

不満を漏らすと、正論でぴしゃりと言い返されてしまった。

「そういう優しさから厳しいのはわかってますけど〜…」

普段は優しくできるんだから、稽古の荒さぐらいどうにかしてよ。

「君はそんなに弱いくせに優しくしてもらおうと思ってるんですか?」

沖田さんが長身を利用して見下ろしながら言った。
最後にふんっ、と鼻で笑うおまけつき。

「弱い弱いって何回も言わないでください」

わたし、これでも剣道部のエースで実家は道場なんだけど!
なかなか強いはずなんだけど!

「事実でしょう」

「いつか絶対沖田さんより強くなって、わたしが沖田さんを守りますから!」

反論できない代わりに目標を宣言する。

「は?やめてください」

まさかの即答。

「迷惑だからってそんな冷たい断り方しなくても…」

「君には弱いままでいてもらわないと困ります」

「そんな…!わたしだって強くなりたいです!」

「妙な自信をつけて勝手な行動をした上に死なれたんじゃ気分が悪い」

「ひどい!」

「いいですか、君は黙って僕に守られていてください。」

意地悪な顔つきが直って、まっすぐ見つめられる。この顔、どきどきする…。

「えっ…」

「君は誰にも傷つけさせない」

「沖田さん…」

「君のことは、絶対に僕が守ります」

そのときの沖田さんは、本当にかっこよくて呼吸も忘れそうなほどだった。
ぼうっと見惚れて思わず頷いてしまったけど、やっぱりわたしだって強くなって、沖田さんと肩を並べてみたいなあ…。
こんなに強い人と肩を並べられるほど強くなれたら、どんな世界が見えるんだろう。
わたしも、沖田さんと同じ世界を見てみたい。
きっとこの人には追いつけないんだろうなあ、と切なく思いながら、わたしの肩よりずいぶん高い位置にある彼の肩を睨みつけた。

20140627



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